朝、目が覚めたらそばにいて
そこまで話すと「待って」とそれまで黙って聞いていた沙也加が話を止める。

「例の彼とホテルに行ったってこと?」

「うん、そういうことになる」

「覚えてないの?」

「何となくしか」

沙也加が大きなため息をつく。

「呆れた」

「自分でもそう思う」

「無事だったからよかったものの、変な人だったらどうするのよ」

沙也加のいうことはごもっともでぐうの音も出ない。
でも一緒にいて不思議と正太郎さんに対して怖いとか、何か危ない目に遭いそうだとか感じなかった。
それに後悔もしていない。

「どうしたらそんな流れになったの?」

「それが自分でもわからなくて自己嫌悪に陥ってるところなんだ」

記憶をなくすなんて初めてで、その間に何があったのか、自分がどんな様子だったのかそれだけは考えるだけで恐ろしい。

「彼は酔ってなかったの?」

「かなり飲んでたと思うけど、よく喋ってたことは覚えてる」

「どんな話していたかも?」

「うん、一番盛り上がったのは千秋先生の作品のことで。彼、やっぱりファンなんだと思う。私よりも作品に詳しいところがあったよ」

ここまで話すと沙也加がまた大きなため息をつく。

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