朝、目が覚めたらそばにいて
「ごめんね、なんか疲れちゃってるみたいで起こしても起きない。起きたら折り返し電話するように伝える」
正太郎さんが目を覚ました時、そばには佐々木さんがいるという事だ。
「いえ、あの昨日のお礼を言いたかっただけなので。伝えていただければ電話は結構です」
「そう?あ、昨日はどうだった?あのお店美味しかったでしょう?私が進めたの」
早く電話を切りたいのに、会話を続けていくうちに小さくできた傷が大きく広がっていく。
「はい、美味しかったです」
大人の癒し空間は佐々木さんのおすすめだった店。
「正太郎くん、山下さんと話が盛り上がったって言ってたわ。なんでも如月千秋の小説の話題でかなり話し込んだって」
正太郎さんと千秋先生の作品についてたくさん語ったこと私の大切な時間だったのに、あっけなく第三者へと話が伝わってることに気持ちが沈む。
二人だけが共有した大切な時間だったのに。
そう思っていたのは私だけだった。
「山下さん?」
返事もできずにいる私を沙也加が電話を貸せとジェスチャーする。
大丈夫と首を振って私は意地だけで気持ちを持たせていた。
「いろいろとありがとうございました。お世話になりました」
それだけ言って電話を切る。
突然、締めくくられた会話に「え?山下さん?」という声が聞こえたがかまわず電話を切った。