朝、目が覚めたらそばにいて

「はい、若者代表です」

「代表ってなんだよ!で、お前は恋してるのか?」

「…聞かないでください」

「恋愛離れを語ってるくせに」

「ですよねぇ。あーあ、千秋先生の小説みたいな恋、どこかに落ちてないかなぁ」

「アホだな」

「わかってます。リアルに恋愛したいなっていつも思ってます。小説の中で恋愛した気分になってちゃダメだって」

いい気分で小説の中の恋愛を自分に重ね合わせていると力説していると急に現実に戻された気分になってため息をつく。

「でも良いんじゃないか、作家はそんな風に自分の書いたものを使ってくれているとわかったら嬉しいと思う」

「えっ?」

「作品は世に送り出された時に作家の手を離れていく。手に取ってくれた人たちがどうやって受け取ってくれているか興味があるし、それを育ててくれるのも読者だと思ってる…」

正太郎さんの口調が変わり急に真面目なことを言うから、じっと正太郎さんの顔を見てしまった。それに気がついた正太郎さんは「…と思うけど、」と、また元のゆるい空気に戻してしまう。

「ま、良い感想ばかりじゃないけどな」

少し険しい顔になってポツリと呟く。
それは苦しそうにも見えた。

「それは当たり前じゃないですか!世の中にはいろんな人がいるんです。性別から年齢、好きな人のタイプ、見た目から内面がみんな同じだったら喧嘩になります」

「喧嘩になるってなんだよ」

「みんながみんな同じ人を好きになって奪い合うんです」

「奪い合う?タイプがみんな同じなら、恋愛相手は誰でも良いだろ」

正太郎さんの屁理屈のような言葉に「それもそうか」と納得する。

「納得するな」

呆れたように笑った。
正太郎さんの笑顔が私の胸の奥にどんどん甘い雫を落としていく。


「とーにーかーくー、千秋先生の小説は私の恋愛バイブルなんです」


「勝手に締めくくったな」

この頃には胸に甘い雫が満タンになっていた。



正太郎さんとのこんなやり取りを思い出す。
心地よかった。好きになっていた。



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