朝、目が覚めたらそばにいて

登坂くんはやっぱり心配してくれているんだ。

「あのね、背中の彼がいたの。サイン会の会場になっていた出版社に。偶然会って、流れで飲みに行って浮かれていたら…恋人がいて…失恋?」

そこまで言って、だから言っただろとか、夢見てるからだろとか、いつもの登坂くんの返事を構えて待っていた。


けれど少しの沈黙後、帰ってきた言葉は「そっか」と言う短い返事。
続いてためらうように出てきた言葉は

「…山下、現実の恋しないか?」

「えっ?」

登坂くんの言葉の意味がわからず聞き返すと焦ったように登坂くんは自分の言葉に補足をつける。

「いや、だから、ちゃんと現実の恋をしろってことだよ、少しは身近に目を向けて」

「あ、そう言う意味か。うん、そうだね、そうする。あーあ、千秋先生の新刊も出る予定がなさそうだし、気に入った作家も見つからないし、恋愛小説はしばらく封印しようかな」

「それもいいかもな」

呆れたように登坂くんの笑い声が聞こえてきた。
数時間前、登坂くんと言い合いしてからの鬱々とした気持ちが解消され始める。

そして何気なく言った彼の「現実の恋をしろ」という言葉を頭の中で繰り返す。
真面目に婚活でもしようかな。
夢みたいな恋愛は現実には訪れない。
そう言われているのを無理やり納得しようとしていた。




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