朝、目が覚めたらそばにいて
小説のような恋はあるのかも


あれから三ヶ月が経とうとしていた。
季節は梅雨に入ろうとしている。
毎日、じめじめと湿気が多い日が続いていた。

登坂くんと沙也加とは相変わらずで一週間に一度は一緒に飲んでいる。

正太郎さんとはあれ切りだ。
佐々木さんからも連絡はない。

正太郎さんとの出会いは本当に偶然で、運命ではなかったんだと思う。
今ではそう思うようになってきた。

あの後も千秋先生の新刊は出ていない。
それもあってか千秋先生の作品を意識的に封印した。
まとめてクローゼットの奥へとしまったのだ。

「婚活する」といきなり言いだした私に登坂くんも沙也加も「婚活の前に恋愛をしろ」と真剣に受け取ってくれなかった。

のも、わかる。

具体的な「婚活」方法がわからず、活動をまったくしないまま今に至っているのだから。
根本的な私の恋愛感覚は変わってなく、あの日から三ヶ月経った今でも記憶の片隅にある正太郎さんの温もりを思い出しながら過ごしていた。

忘れなきゃ。

会えなければ忘れると思っていた。記憶から抜けると思っていた。
彼のことを何も知らないし接点もない。
なのにふとした瞬間にあの笑顔を思い出してしまうのだった。
もっと時間が流れれば忘れられるだろうか?

こんな思いを持ったままの私を二人は知らない。
余計な心配もかけたくないし詮索もされたくない。
私だけがそっと持っていればいい。

「こんな思いを抱き続けていたら、それこそ、恋愛なんてできないよな」

そう思い始めていたある日、突然、その連絡は来た。


< 59 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop