朝、目が覚めたらそばにいて
背中に一目惚れ?


「で?その無愛想男に一目惚れしたわけ?」

今は昼休み。
会社の食堂で定食の焼き魚をつつきながら沙也加が「またか」というように話を半分しか聞いてくれずに出た言葉。


「違うって、沙也加、人の話聞いていた?彼の背中に恋したの」

実際には背中というよりは不意に見たあの笑顔だ。

「はい、はい。また夢の世界に浸ったってわけね。背中に恋しちゃうって私にはわからない」

書店で千秋先生の小説を譲ってもらった彼のことを真っ先に沙也加には話してある。
あれから二週間が経つが、彼に会うことはない。
用事もないのに何度もあの書店に出向いてもだ。

「欲しいものが手に入ったのに、まだ書店に通ってるってことはその彼目的でしょうに」

「そんなんじゃないよ」

とは言ってみるものの下心があるのは見え見えだ。

「現実を見なさい、現実を」


沙也加は現実主義だ。
物事を達観でき、地に足がついている。

見た目も落ち着いていて、背が高く目元が涼しげなクールビューティという言葉がピッタリ。
どうして私のような非現実的な恋をしている私と一緒にいてくれるのか不思議に思う。

一度、聞いたことがあるが「同じような性質を持った人間とはソリが合わない。環奈くらいフワフワしている方が面白い」と言われた。

フワフワって言葉は褒め言葉なんだろうか?
喜ぶべきか悲しむべきか悩んでいたら「喜ぶべき。私が気に入ってるんだから」と言われたから素直に喜んでおいた。
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