朝、目が覚めたらそばにいて



「こっちこっち」

大型書店の前に並ぶ私たちに三十分遅れて登坂くんがやって来た。
休日の九時の待ち合わせは早くないはずなのに彼は眠そうだった。
会社ではワックスで整えている髪型も、ナチュラルに下ろしたまま。
インナーにTシャツを着てブルー系のチェックのシャツを羽織っている。
ジーンズにスニーカーという姿を見ると、会社にいる時よりは若く見える。

「雨降らなくてよかったね、はい、どうぞ」

登坂くんに缶コーヒーを渡す。

「お、サンキュ!元気だな、山下」

「だって、待ちに待った如月千秋の新作だよ。それにね、二人とも良い時に来ましたよ」

「良い時って?」

登坂くんが私た缶コーヒーのプルタブを開けて聞き返す。

「年齢不詳、顔も姿もメディアに出てなかった千秋先生が今日初めて公に姿を表すんだよ」

「へぇ!って、なんだこれ、ぬるい」

コーヒーを一口飲んで登坂くんが文句を言う。

「時間通りに来ないからだよ。でも来てよかったね」

「どうでも良いよ、俺たち山下が三回握手するために並ばせられてるんだろ?」

そう言いながら沙也加の顔を見ると「そう言うこと」と沙也加が頷く。

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