朝、目が覚めたらそばにいて

いよいよ新作発表会の時間になった。
本当は二人はどこかで時間を潰していてくれることになっていたが、私が落ち着かないと挙動不審に見られると会場まで付いて来てれた。

いつかのサイン会みたいなことになったら大変だ。
もう助けてくれる正太郎さんはいないのだから。

会場にはすでに整理券を持った人たちが並び始めていた。
あと十分待ては千秋先生は登場する。

「始まるまで一緒にいようか?」

顔がニヤけたり、整理券があるか確認したり、前もって購入した新作を汚さないようにと胸に抱えてる姿がどうも怪しく見えるらしい。
実は…緊張しているのだ。
憧れの作家に会えると言うことがこんなにも気分を高揚させ、一種の興奮状態にさせるとは思わなかったのだ。

「うん、始まるまでいてくれる?」

沙也加も登坂くんもそばにいてくれた。
この時は茶化すわけでもなく、ふざけた話もせず。
何を話しても私は千秋先生に会えると言うことで頭がいっぱいで上の空だったからだろう。

スタッフの動きが活発になり、いよいよ新作発表会が始まる。
書店の一角にできたそのスペースだけが異空間になる。
書店にたまたま来た人たちも遠巻きに見られる空間。
沙也加たちはその辺で見ていると言っていた。
司会者の女性が千秋先生の簡単なプロフィールと代表作などを紹介し、新作のあらすじを語っていた。あらすじだけでもよだれが出そうだ。

ワクワクしながら待っていると、いよいよ先生の登場時間となった。

「では今回公の場は初となる如月千秋先生にご登場願いましょう」

ファンの歓声が上がる。
私も期待で胸が膨らんで呼吸が浅くなる。

「如月千秋先生、どうぞ」

司会者が手を示した先に登場したのは…




嘘でしょ?




正太郎さん?

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