朝、目が覚めたらそばにいて


会場からは「わー、あれが如月千秋?」「女性だとばっかり思ってた」「イケメンじゃん」
そんな声が飛び交い、取材に来ていたスチールカメラマンや記者が注目していた。

私の知っている正太郎さんとはかけ離れたスタイル。
濃紺のジャケットに麻素材の白いシャツ。ボトムスはホワイトジーンズだ。
足元はジーンズの裾が短めになっていて、相変わらず裸足に見えるが、履きやすそうな皮のデッキシューズを履いていた。

身ぎれいになった正太郎さんを見るのは初めてで、最初こそ誰かと思ったが、茶色がかった瞳、笑うと上がる口角は見覚えがある。それに笑顔で登場した顔は私の大好きな顔だったのだから。


足元が震える。
三ヶ月前に恋になる前に失恋した正太郎さんが憧れの「如月千秋」だったなんて。
あの日、千秋先生への思いを彼にずっと話していた。
私が憧れていた先生の思いを全て伝えてしまっていた。


合わす顔がない。
張り切って一番前のど真ん中を陣取った私は逃げることもできず、近づいてくる千秋先生…正太郎さんの視線に捕まる。

一歩、二歩と後ずさりすると後ろの人にぶつかる。
足元がふらついてめまいがした。

「危ない!」

最後に私の目に映ったのは正太郎さんが慌てて私に近づいてくる焦った顔だった。
私はそのまま意識を失ってしまった。

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