朝、目が覚めたらそばにいて
ふわふわと夢心地。
誰かが私の髪の毛を撫でながら耳元に囁く。
「また会えた」
その声は艶っぽく体の芯を溶かす。
人肌が暖かく、そのまま顔を埋めたてしまいたい。
ハッ!
あの時と同じ感覚。
もう同じ過ちは繰り返したくない。
ここは?
フカフカのベッドの上。
過ちを犯した夜よりも上質なベッドに大きな部屋。
洗面所から水音がする。
そこから出て来たのは
「あ、目が覚めた?」
「えっ?佐々木さん?」
「軽い貧血だって。大丈夫?」
「私…」
「正太郎くんが登場したら倒れたのよ…あ、如月千秋か」
佐々木さんはおかしくもないのに笑う。
正太郎さんの恋人。
忘れていたはずの胸の痛みがぶり返す。
「新作発表会」
「残念ながら終わって、今は取材を受けているわ、彼の三年ぶりの新作だから期待している人も多いはずなの」
「そうですか、ご迷惑をおかけしました」
また迷惑をかけてしまった。
ベッドから起き上がり帰り支度を始める。
「どこ行くの?」
「帰るんです。友達も待たせているので心配していると思うので」
「登坂さんと川原さん?」
「なんで知ってるんですか?」
「山下さんが倒れて真っ先に登坂さんが飛んで来たのよ、でもその前に正太郎くんが山下さんを抱えてここまで連れて来たの」
「えっ?」
「だからお友達には連絡済みで目が覚めたら山下さんから連絡するということで帰ったわ」
「そうなんですか?でもここって」
「ホテルよ。控え室として客室をリザーブしてあったのよ。着替えとかしなくちゃいけなかったし」
そういえば書店はホテルと並んでいるショッピングモールの中に入っていた。