朝、目が覚めたらそばにいて

「その間、発表会は中断することになったけれど、正太郎くんは自分で運ぶってきかなかったの」

「すみません」

「あ、責めているんじゃない。この新作を出せたのもあなたのお陰なんだから」

「私のって意味がわかりません」

「如月千秋のファンだというあなたに出会って、彼はスランプを抜け出したの」

「スランプだったんですか?」

「んー、簡単にはいえないけれど、そう言われてもおかしくないわね。いきなり新人賞を取っちゃってそれから二作、三作と順調すぎて四作目が鳴かず飛ばずだったの。そのギャップがね。それから数冊は出したけどなかなか思うようにいかなくて、書くのをやめてしまっていたから。」

「山下さんが作品についてあなたなりの感想や登場人物の解析をしていたでしょ?あれを聞いた日、正太郎くんと会う約束をしていたの。会ってすぐにわかったわ。彼、顔が全然違っていて、作品を描き始めた頃に戻っていたの。書きたくて書きたくて仕方ないという衝動で輝いていた顔に」
恋人には些細な違いがわかるのだろう。

「その日も朝から会議の予定で、なんとか彼を作品と向き合ってほしくて制作会議を重ねていたの。山下さんと会った日も会議だったんだけど、途中であなたの騒動があったでしょ?それで中断しちゃって」

「重ね重ねすみません」

「いいの、いいの、それが功を称したんだから。山下さんが如月千秋のファンだって聞いた途端、何かヒントがあればと私が強引に正太郎くんと食事に行かせたのは、藁をも掴む思いだったのよ。それくらい切羽詰まってたの」

「千秋先生をよくご存知なんですね」

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