朝、目が覚めたらそばにいて
正太郎さんと二人になった部屋。
高層階の部屋からは遠くに陽が落ち始める様子が見渡せる。
「お前も飲む?」
私はベッドの縁に座ったまま首を横に振る。
正太郎さんは冷蔵庫からペットボトルの水を持ち出しソファに腰掛けている。
「体、大丈夫か?」
「はい」
「あれから元気だった?」
「それなりに」
「俺は…ダメだった」
「えっ?」
「お前と連絡が取れなくなってショックだった」
「すみません、でもあの時は佐々木さんが恋人かと思って私もショックで夜通し泣いて…」
「泣いたのか?」
「泣きました」
「後から考えたらひどいよな。ホテルに置き去りにしたこと」
「うん」
「塔子さんと会議の予定が入っていて、お前の如月千秋の作品の感想を聞いていたら無性に書きたくなって制作会議のことで頭がいっぱいになってた」
正太郎さんの視線は自分の足元に向けられたまま、言葉をつなげる。
「連絡が取れなくなって何がダメだったか考えようとしても書くことに集中し始めると他のことが考えられなくて時間だけが経って行った。一段落して一番最初に読ませたいお前に連絡が取れないことが悔しくて辛かった。だから新作発表会でお前を見つけた時、すぐにでも捕まえたかった。二度と逃げられないように」
「えっ?」
「如月千秋はお前が生き返らせてくれたんだよ」
「大げさですよ」
「それくらいお前の存在が大きくなってるってこと」
そう言うと正太郎さんはペットボトルをテーブルの上に置き立ち上がる。
そのままベッドサイドに立ち私を見下ろした。
西日が部屋に入り込み、二人の影が重なる。
優しいキスが上から降ってくる。
唇をついばむようにソフトでくすぐったいキス。
正太郎さんの唇が少しだけ離れ「口開けて」と囁かれた。
甘くとろけるような声で…
すれ違った時間を取り戻すようにお互いを求め合った。
「やっと手に入れられる」
一糸まとわぬ私の体を見てそう呟く。
「えっ?」
私はその言葉の意味を後から知ることになった。
その日は一晩中、正太郎さんに離してもらえず、そして私も正太郎さんを求めていた。