初恋の人
夫は無言で立ち上がると、急いで正面入り口へ走って行きました。

何かあったのかもしれない。

私も、昔の血が騒いで、一緒に走っていました。

するとそこには、血まみれの怪我人が、何人も転がっていました。

「どうした?」

入り口の戸を開け、夫は倒れている一人を、抱き起しました。

「ピストルの……撃ち合いに……巻き込まれた………」

掠れた声で答えたその人は、意識を失ってしまいました。

中には弾が当たったのか、うーうーと唸っているいる人もいました。


遅れて駆け付けた看護婦達に、夫は指示を出しました。

「順番に片付けよう。」

倒れている人を一人一人、担架に乗せ、処置室まで運ぶ。

私も気が気ではなくて、気が付いたら、看護婦達の手伝いをしていました。

「すまないな、綾女。」

「いいえ。こんな時は、人手が多い方が助かるでしょう。」

夫と目を合わせ、また入り口に患者さんを迎えに言った時でした。
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