初恋の人
夜の更けていた時間でしたから、深雪さんが心配する気持ちも、分からないでもありませんでした。

「これでも、元看護婦よ。包帯を巻くくらいはできるでしょ。」

そう言って私は、病院へと戻って行きました。


早く、病院に戻らなくては。

その時の私は、紳太郎さん事しか、頭の中にありませんでした。

あの深雪さんのように。

私も彼を庇いたい。

守ってあげたい。


そう思った時、ふと足が止まりました。

守ってあげるって、誰から?

そしてまた、夫の興奮した姿が脳裏に移りました。

夫から?

夫から紳太郎さんを守りたいの?

私は、頭を激しく横に振りました。

一体何を考えているのだろう。

私は、夫のモノだと言うのに。


それから歩いて病院に着いた頃、紳太郎さんは白衣を着て、治療にあたっていました。

「ああ、奥様。」

看護婦が私を見て、笑顔で近づいてきました。

「さすがですよ、紳太郎先生。」



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