初恋の人
そしてみんなが一息ついた頃、上の階の病室から一人の看護婦が、降りて来ました。

「院長!301号室の林さんが急変です!」

「なに?」

夫が階段の方へ行こうとすると、誰かが夫の腕を掴みました。

「紳太郎……」

「僕が行きます。兄さんは、休んでいて下さい。」

紳太郎さんが看護婦と一緒に、階段を駆け上がろうとした時、夫がふいに彼を呼び止めました。

「紳太郎!301の林さんは……」

言いかけて、夫は止めてしまいました。

「いや、おまえに任せる。」

紳太郎さんは、小さく頷くと急いで階段を昇って行きました。


私は5年もの間、この病院で看護婦をしていましたが、医者になって一年未満の新人の医者を、何も忠告せずに急変した患者の元へ行かせるなんて。

それほど紳太郎さんの腕は、誰が見ても認めざるを得なかったんです。


私はなぜ、結婚してしまったんだろう。

結婚して看護婦を辞めなければ、紳太郎さんと一緒に働けたのに。

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