初恋の人
そう思わずにいられなかった私は、無意識に2階の病室へと昇っていました。

301号室の、急変した患者さんの治療にあたっている紳太郎さんの背中を見ると、なぜか切なくなって、泣きたい気持ちになりました。


それから30分程して、夫も2階へ昇って来ました。

「紳太郎は?」

「まだ病室です。」

夫は301号室の覗いて、眠っている患者さんと、それをじっと見つめる紳太郎さんを確認して、私にこう教えてくれました。

「なぜ、経験の浅い新人の医者が、ここまでできるのだろうと、綾女なら思ったんじゃないか?」

「……ええ。」

「あいつは小さい時から、病院に遊びに来ていたんだ。急患が入った時も、廊下からじっと、治療を見ていた。」

その時私は、なるほどと思いました。

「親父は俺よりも、紳太郎に病院を継いでもらいたかったかもな。」

「そんな……」

そんな事はないと、なぜ言い切れなかったのか。

私にも、分かりませんでした。
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