初恋の人
「あなた、私も家に戻りますね。」

「ああ、手伝ってくれて助かった。」

夫は何を感じ取ったのか、ふいに私の手を握ってくれました。

「綾女。さっきの事は、紳太郎に言うなよ。」

「はい。」

言いたい事はそれだけだったのか、後ろ髪引かれる想いで、私も病室を後にしました。


私が家に戻る為に一階に降りると、白衣を脱いだ紳太郎さんに会いました。

「義姉さんも、今帰りですか?」

「ええ。」

裏口から一緒に病院を出て、私達は二人並んで歩きました。

「今日は、お疲れ様だったわね、紳太郎さん。」

「義姉さんも、お疲れ様でした。」

紳太郎さんは、わざとらしく私に、頭を下げました。


「あっ、そう言えば宗佑と酒を呑もうって、約束してたんだっけ。うわ~、今からじゃもう行けないか。」

私と一緒にいる時間を、どう過ごしたらいいのか分からないみたいに、彼は年相応の青年に戻っていました。

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