初恋の人
いけない。

これ以上、近づいたら。

そんな事を思って、紳太郎さんに背中を向けると、耳元に彼の声が聞こえてきたんです。

「なるほど。兄貴があなたを選んだ理由が、分かった気がします。」

ドキッとしながら振り向くと、紳太郎さんの顔が、私の側にあるではないですか。


そして、紳太郎さんの唇がゆっくりと近づいてきて、もうすぐ私の唇と重なりそうになった時です。

「紳太郎様?」

深雪さんの声がしました。

「そろそろお戻りになるかと思いまして、お風呂を沸かしておきました。」

「ありがとう。深雪は、気が利くな。」

私を見つめているくせに、深雪さんに余裕で返事をする。

何て、悪い男なのだろうと思いました。


「ありがとうございます。では私はこれで。おやすみなさいませ。」

「おやすみ、深雪。」

紳太郎さんはそう言うと、私から顔を放し、そのまま部屋を出て行ってしまいました。


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