初恋の人
「ではなぜ、医学の学校に行った?医者になる為ではないのか?」

「父に……心配をかけたくなかったからです。」

紳太郎さんは俯きながら、仕方なさそうでした。


『はっきりとは言われていないが、将来医者になれと言う圧力は、常にあった。』

いつか夫の倫太郎から聞いた言葉でした。

同じ事を、紳太郎さんも思っていたかと思うと、私は心が痛みました。

ですが、夫の倫太郎は違っていました。


「心配を……かけたくなかっただと?」

夫は立ち上がると、紳太郎さんの胸元を掴みました。

「そんな事をよく言えるな!どれだけ親父に心配をかけた!親父はおまえが勝手に家を出てからも、ずっとおまえの事ばかり、考えていたんだぞ!」

「あなた、その辺で……」

また紳太郎さんに暴力を振うのではないか。

そう考えた私は、夫を紳太郎さんから引き離しました。

「おまえが殺したんだ!おまえが、親父を殺したんだ!」

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