初恋の人
「止めて下さい!」

兄弟の仲で、父親を殺した殺してない等の口喧嘩は、聞いていられなかったんです。

一方の紳太郎さんは、じっと堪えながら、夫の思いを聞いていました。

「父さんの事では、言い訳しません。ですが結婚の話だけは、許して下さい。」

「駄目だ。おまえもこの家の者なら、しっかりとしたお嬢さんを伴侶に迎えるべきだ。」

夫は、紳太郎さんの気持ちを一切聞き入れず、駄目の一点張りでした。

「お願いです、兄さん。他の事は、何でも聞き入れますから。」

熱心に許しを請う紳太郎さんに、私はこのままにしておけないと思いました。


「ねえ、あなた。紳太郎さんの話を、聞いてあげてください。」

「聞く必要はない!」

「せめて理由だけでも。」

私の願いに、夫は紳太郎さんをじっと見つめました。

そして紳太郎さんは、声を震わせながら、口を開きました。


「僕には、結婚を約束した人がいるんです。」

「なに?」
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