初恋の人
「あなたも……女の事は、随分知っているのね。」

「僕が?」

何でもない言葉でも、耳元で言われれば、私の首筋がゾクゾクしました。


「女が、どんな言葉を並べれば自分の腕に抱かれるか……憎らしい程に知っているわ。」

「そうかな……」

「そうよ。でもね。全員が全員、その手にかかるとは……限らないのよ。」

私は一瞬緩んだ、紳太郎さんの腕から逃れました。

「義姉さん。」

「今日の事は、忘れてちょうだい。」

そう言って立ち上がると、私は直ぐ様居間を飛び出しました。


彼に落ちない方法は、ただ一つ。

落ちる前に、近づかない事だ。


その時でした。

私の右手が、紳太郎さんに掴まってしまいました。

「義姉さんも、よく男を知っている……」

「えっ?」

「女が逃げれば逃げる程、男は追いかけたくなるものだ。」

もう私の心は、彼に掴まる寸前でした。

「あら、掴まりたくて逃げているのが、分からないのかしら……」
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