初恋の人
夫には関係のない事だと言うのに。

私も静かに、夫に背中を向けて、布団に入りました。

背中が寒くて、少しだけ布団を引き上げると、夫がそっと、後ろから抱きしめてくれました。

「寂しいのか?」

そう聞かれても、他の女のように、寂しいと言えない性格でした。

「綾女、俺がいるじゃないか。」

グッと夫に抱き寄せられて、その熱が、体に伝わって来ました。


「あなた……」

何を伝えようとしたのか、私は少しだけ、夫の方を向いてみました。

でも夫は既に眠っていて……

私は深いため息をついて、また夫に背中を向けました。


こんな時、紳太郎さんはどうするのだろう。

もし眠っていたとしても、話しかければ起きるのかしら。

もし寂しいと女が言えなくても、抱いてくれるのかしら。

いいえ、それよりも……

手を振り払っても、その手をもう一度掴んでくれるのでは……

紳太郎さんへの妄想は、膨らむ一方で、胸がキリキリと痛みました。


< 42 / 80 >

この作品をシェア

pagetop