初恋の人
紳太郎さんの質問に、適当に答えて、私はお客様に出した湯呑を片付けようと、立ち上がりました。

「義姉さん、僕にもお茶をくれませんか?」

腕を引くように、簡単な言葉で心を引く紳太郎さん。

何より怖いのは、そのままここに居座ってしまいたくなる、自分の気持ちでした。


「だったら、詩野さんに伝えておくわ。」

そう言って、部屋を出ようとした時でした。

「義姉さんの淹れたお茶が、僕は飲みたいんだよ。」

振り返ると、紳太郎さんはニヤッと笑っていました。


紳太郎さんに会いたいからこそ、紳太郎さんを避けている。

そんな裏腹な私の心を、見透かしているようでした。

私は黙って、茶の間に座ると、棚から湯呑を出して、紳太郎さんにお茶を淹れてあげました。

「うん、美味い。」

誰が淹れても同じ味だと言うのに、わざと特別扱いをして。

私は嬉しい気持ちを押さえるのに、精一杯でした。


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