初恋の人
「誰が淹れても、皆、同じ味よ。」

「そんな事はない。義姉さんの淹れるお茶は、本当に美味しいよ。」

そう言ってお茶を飲む姿さえも、色気があって、思わず湯呑を持っているその手を、じーっと見つめてしまいました。

その柔らかそうな手で、唇をなぞられたら……

私はゴクンと、息を飲みました。


「義姉さん。」

私はドキッとして、急須を倒してしまいました。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ……」

余計な事を考えていた事を知られたら、もっと離れられなくなる。

このまま急須を持って、部屋を出よう。

そう決めたんです。


「もっと、布巾を持ってくるわね。」

私が立ち上がろうとした時でした。

紳太郎さんの手が、私の手を掴んだんです。

「……行かないで下さい。」

「紳太郎さん……」

「僕を、一人にしないで下さい。」

顔を上げた紳太郎さんは、とても寂しそうな顔をしていました。
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