初恋の人
ドキッとしました。

まるで捨てられた子犬のように、紳太郎さんは私の元へ、すがってきました。

無意識に、紳太郎さんを抱きしめていました。

時間がこのまま、止まればいいと思うくらい、私は満たされていました。

このままでいい。

このまま、紳太郎さんの匂いを、感じているだけでいい。

私は、自分の心に言い聞かせました。


その秘密を打ち破ったのは、紳太郎さんの方でした。

「義姉さんは、甘い香りがしますね。」

「えっ……」

私の腕の中にいながら、顔を上げた紳太郎さんは、あの時のようにニヤッとしました。


ああ、クラクラする。

もうダメだと思いました。

案の定、気づいた時にはもう、紳太郎さんに押し倒されていました。

私を見降ろす、紳太郎さんがいる。

なんて、扇情的な光景なんだろう。


「……どうして、逃げないのですか?」

「分かっているくせに……」

私は静かに、目を閉じました。


< 46 / 80 >

この作品をシェア

pagetop