初恋の人
お父様のたっての願いでなければ。

兄としては、たった一人の弟にも祝福されたい。

でも跡継ぎとして、早く家族を持って、年老いた父を安心させてやりたい。

倫太郎さんは、苦渋の決断を迫られたのだと思います。


そして私はふと、紳太郎さんの頬が、赤くなっているのを見つけました。

「紳太郎さんも、お葬式に出席するのでしょう?」

「ああ……兄貴が許してくれるのであれば……」

こんな時に、殴ってきた兄に義理を立てるなんて。

私はこの兄弟が、少しだけ羨ましくもありました。


「お葬式に出るのならば、頬を冷やさなければだめね。今、氷を持ってくるわ。」

私が立ち上がったその時でした。

「大丈夫ですよ、義姉さん。」

紳太郎さんは少し微笑むと、そのまま自分の部屋へと、戻って行きました。


義姉さん……

その言葉がやけに、私の心の中に響きました。

私には姉妹しかいませんでしたから、男の人にそう呼ばれるのは、何とも気恥ずかしい感じがしましたね。
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