初恋の人
それから詩野さんは、茫然とする機会が、多くなりました。

無理もありません。

夫が事故に巻き込まれたと言うだけでも、胸が潰れそうだと言うのに、しばらく家に帰って来ず、会うこともできないなんて。

その気持ちは、私も一緒でした。


早く帰って来てほしい。

早く帰って来て、また私を抱きしめてほしい。

そんなふしだらな気持ちを、一人悶々と抱えながら、毎日が過ぎていきました。


そして1カ月後。

紳太郎さんは元気な姿で、私達の前に帰って来てくれました。

「奥様。紳太郎さんが、帰ってらっしゃいましたよ。」

「紳太郎さんが?」

私が急いで玄関に行くと、そこには久々の対面を果たした、紳太郎さんと詩野さんの姿がありました。

「紳太郎さん、お帰りなさい。」

「ただいま、詩野。」


本当は今直ぐにでも、紳太郎さんの存在を確かめたかった。

でも、彼の帰る場所は私のところではなく、詩野さんのところなのです。

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