初恋の人
その日、夫は当直の日でした。

そんな日は、みんなが寝静まった後に、一人でゆっくり、お風呂に入るが好きでした。

そのままあんな事がなければ、何気ない日常で、一日を終えるはずだったんです。


脱衣所で一人服を脱いで、風呂場で体を洗い、最後に湯船に浸かっていました。

大抵の家の事は、使用人がやってくれるので、家事で疲れると言う事がない中、だからこそ、紳太郎さんの事が浮かんでは消え、浮かんでは消えていました。

「ダメね、このままじゃあ。」

いつになったら、紳太郎さんを忘れられるのだろう。

一人、湯船の中で、大きなため息をついた時でした。


突然、お風呂の戸が、開いたんです。

「えっ……」

「あっ、すみません。」

直ぐにお風呂の戸は閉められましたが、それが紳太郎さんだと言う事は、一瞬で分かりました。

私は湯船から上がると、少しだけお風呂の戸を、開けました。

「紳太郎さん、私はもう出ますから。」

< 57 / 80 >

この作品をシェア

pagetop