初恋の人
慌てて着物を掴み、それを羽織って、そーっと戸を開けました。

すると、紳太郎さんの姿は、脱衣所にありませんでした。

「あら?紳太郎さん?」

彼だと思っていたのは、間違いだったのかしら。

私は、脱衣所の周りを、キョロキョロと見回しました。


すると急に、脱衣所の向こう側の廊下から、手が伸びてきて、私の口を覆いました。

「きゃっ……」

「義姉さん、僕です。」

耳元で聞こえたのは、紳太郎さんの声でした。

「危ない。もう少しで痴漢扱いされるところだった。」

私は、紳太郎さんの腕を、下に降ろしました。

「こんな事をしたら、誰でも大きな声を出すでしょう?」

振り返ると、着物の前がはだけていた事に、私は気づきました。

恥ずかしくて、手で押さえると、なぜか紳太郎さんの手が、その手を掴みました。


「離して下さい、紳太郎さん。」

紳太郎さんに見つめられ、私は横を向きました。

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