初恋の人
それからは、夫が当直の日。

お風呂場で落ち合うのが、私と紳太郎さんの、暗黙の了解になっていました。


まずは私が先に脱衣所に入って、その後に紳太郎さんがやってくるのが常でした。

二人で着物を脱ぎ合って、浴室で裸で抱き合っては、貪るように愛し合っていました。

「綾女……」

紳太郎さんのそんな甘い声で呼ばれ、彼の柔らかい唇が、私の肌に触れると、一瞬で夫の事を忘れるのでした。


このまま、紳太郎さんと二人で、どこか遠くへ逃げてしまいたい。

そんな事を考えても、できない事を自覚しては、深いため息をつきました。


「どうしたの?綾女?」

そんな時は決まって、紳太郎さんは私の事をぎゅっと、抱きしてくれました。

「ううん。何だか、もっと一緒にいたくなって……」

「いつも側にいるよ。」

甘い声が耳元に響いて、そんな時はいつも、至福の時を過ごしてしました。

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