初恋の人
「綾女、よかったわね。」

一緒に付き添ってくれた友達は、自分の事のように、喜んでいました。

「結婚して大分経つもの。旦那様も、さぞかし喜んでくれるでしょうね。」

私は友達に、作り笑いをするのが、精一杯でした。


「ねえ。お願いがあるの。」

「なあに?」

「この事は、夫には内緒に……」

「任せて。」

友達は、私の肩に手を乗せました。

「内緒にしていて、後でびっくりさせてあげようとしているんでしょ?」


友達は私が結婚した後も、時々家に遊びに来ていましたから、勿論夫とも顔見知りでした。

私が妊娠したと知り、心配になって、私の家に遊びに来る回数も、増える事でしょう。

その時に、友達がうっかり話してしまわないように、釘を打ったのでした。


「大丈夫よ。これでも、口は堅いんだから。」

友達は、私を励ますつもりで、笑顔で約束してくれたのでした。

私は友達にお礼を言って、産院を出ました。

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