初恋の人
この子は、間違いなく、紳太郎さんの子供。

それでも、家に帰るまでの間、私は一切この子の命を奪う事は、考えていませんでした。


やっと授かった命。

それもありましたが、私の中では、紳太郎さんと愛し合ってできた子供。

それしか、考えられませんでした。


私は家に戻って中に入ると、廊下から病院の中にいる夫の姿が、見えました。

このまま、本当の事を隠して、産んだら?

夫は、自分の子供として、この子を慈しんでくれるでしょう。

紳太郎さんも何も知らないまま、自分の甥か姪として、この子の面倒を見ていくのかしら。


私は、自分が被った罪の大きさに、その場に倒れるようにしゃがみ込みました。

「奥様、大丈夫ですか?」

使用人の一人が、心配して駆け付けてくれました。

「ええ、大丈夫よ。」

私は戸にしがみつきながら、ふらふらと、立ち上がりました。


この子の事を、夫に打ち明けよう。

私は、その時決意しました。

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