初恋の人
結婚する前は、どんな時でも私を見てくれたのに。

もう今は、優しい言葉を掛けても、見向きもしてくれない。

寂しい気持ちで、私は夜食を机の端に置きました。


「ねえ、あなた。」

「どうした?」

「紳太郎さんが戻って来てから、少し変わったじゃないかしら。」

私がそう言うと、夫は書く手を止めました。

「気のせいであれば、いいのですけど……」

すると夫は、ゆっくりと椅子を回して、こちらを見ました。

「綾女こそ、紳太郎がこの家に来て、変ったんじゃないのか?」

一瞬、ドキッとしました。

「そんな事、ありませんよ。」

「そうか?やけに、紳太郎に世話を焼くなと思ってな。」

私の胸は、静かに高鳴っていました。


夫は、私の心代わりを疑っている?

その時の胸のモヤモヤを一新するかのように、私は大声で笑いました。

「嫌ですよ、あなたったら。」

夫は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていました。
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