初恋の人
「私が紳太郎さんに、熱をあげているとでも?」

更に笑う私に、夫も笑い始めました。

「それこそ、きのせいですよ。ほら、紳太郎さんはまだ独身でいらっしゃるでしょ?世話を焼く人がいないから、私が面倒を見ているようなモノです。」

「そうか……」

「そうですよ。よく考えて下さいな。あなたの弟ですよ?私にとっても、義理の弟じゃないですか。」

「それもそうだな。」

夫はほっとした表情になると、夜食で作ったおにぎりに、手を伸ばしました。

「うん、上手い。」

「ありがとうございます。」

やっと笑顔の戻った夫を前にして、ふぅーとため息をついたのは、どうしてだったのだろう。

紳太郎さんへの気持ちを、知られそうになったから?

それとも、私への疑いが晴れたから?

どちらとも言えない気持ちを抱えて、宿直室を出ようとした時でした。

突然、病院の入り口を叩く音が、響き渡ったです。
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