永遠に叶えたい愛がある。
コーヒー豆の匂いが香る小さな喫茶店。
私たちが席についてから、数組のサラリーマンや女性が雨を払いながら入ってきた。
私たちと同様に、メニューの置いていないこの店の注文の仕方に戸惑っているようだ。
左右を数回見渡してから“スミマセン”とマスターに声をかけていた。
今日は雨宿りで訪れるお客さんが多いようだ。
そんなことを考えながら座っていると、口元に整えた髭をはやしたマスターらしき人が頼んだものを運んで来た。
一口それを啜ってみると、コーヒーの味は大人な味で私には少し苦く感じさせる。
それまでお互いに一言も発することはなく、流れていく時間を感じていた。
言葉なんかなくても互いに何を考えてるのかわかる気がする。
「身体はもう大丈夫なのか?」
先に口を開いたのは宗平。
「うん。もう痛みもほとんどないよ」
やっぱりあの時、私が追いかけていたのは宗平だったことを確信する。
「悪かった、俺のせいで…」
私に向けられていた眼差しが下を向いた。
ちっともそんなこと思っていないのに。
「私の不注意だったんだよ。そうじゃなくて…あの時は病院まで付き添ってくれてありがとう」
言いたかったのに言えなかった言葉を漸く言えた。
目が覚めたときにはもう宗平の存在はなくて、私も苦しい思いをしていたんだ。
でもきっと宗平はもっと苦しんでいたんだろう。
耳に残る私を呼ぶ声がそれを私に感じさせていた。
「あの時、生きてる心地がしなかった」
宗平のコーヒーカップに添える手がカタカタと音を立てさせる。
「お前を失うかと…」
「宗平…」
俯く宗平から机に涙が滴り落ちる。
私は愕然とした。
予想以上に宗平は苦しんでいる。
私が跳ねられそうになる現場を目の前で見ていた宗平にとってこれ以上にない衝撃に違いない。
私はとんでもないことをしてしまったようだった。
あんなに自信家で弱い部分もギリギリまで吐き出さない宗平が目の前で肩を揺らしている。
こんな想いをさせたいわけじゃなかった。
ただただ会いたかっただけなのに。
「ねえ宗平、私ここにいるよ?」
生きていてよかった。
これ以上の苦しみを宗平に与えずによかった。