永遠に叶えたい愛がある。
「紗英ちゃん」
歩みを止めて声が聞こえてきた方へ振り返る。
「あ、マスター!」
会場のロビーはたくさんの人で溢れかえっていた。
いつもと雰囲気の違うマスターが小さな花束を持って近づいてくる。
「あ、そうか。私服だからだ、なんかマスター別人に見えるね。すごく素敵!」
私服姿を初めて見たけれど、正装されていていつも以上にダンディーに感じる。
「ありがとう。それより、お疲れ様。とても素晴らしい演奏を聞かせてもらったよ」
そう言いながら手に持った花束をマスターが差し出してきた。
「え、私に?…ありがとうございます!」
やることこなすことが全てスマート。
男性はある程度年齢を重ねると皆こういう風になるのだろうか。
「これからも頑張ってね」
「来てくれて嬉しいです。ありがとうございます!」
いつものようにふんわりと微笑むとマスターは背を向けて歩いて行った。
綺麗に咲く色とりどりの花に鼻を近づけると、いい香りが全身に流れ込んでくる。
「あれ…?」
どことなく知っている香りがわずかに鼻を掠める。
その香りに自然と心が温かくなる。
「紗英行くよー!…ってどうした?」
同学年の部員が私の姿を見て近づいてきた。
「…ううん、なんでもない」
目尻に溜まった水分をそっと片手で拭う。
あたりをキョロキョロ見渡してみたが、姿は見えない。
でも忘れるはずがない、大好きな人の香り。
宗平と同じ香りの香水。