永遠に叶えたい愛がある。





「紗英ちゃん」



歩みを止めて声が聞こえてきた方へ振り返る。



「あ、マスター!」



会場のロビーはたくさんの人で溢れかえっていた。



いつもと雰囲気の違うマスターが小さな花束を持って近づいてくる。



「あ、そうか。私服だからだ、なんかマスター別人に見えるね。すごく素敵!」



私服姿を初めて見たけれど、正装されていていつも以上にダンディーに感じる。



「ありがとう。それより、お疲れ様。とても素晴らしい演奏を聞かせてもらったよ」



そう言いながら手に持った花束をマスターが差し出してきた。



「え、私に?…ありがとうございます!」



やることこなすことが全てスマート。



男性はある程度年齢を重ねると皆こういう風になるのだろうか。



「これからも頑張ってね」




「来てくれて嬉しいです。ありがとうございます!」



いつものようにふんわりと微笑むとマスターは背を向けて歩いて行った。



綺麗に咲く色とりどりの花に鼻を近づけると、いい香りが全身に流れ込んでくる。




「あれ…?」



どことなく知っている香りがわずかに鼻を掠める。



その香りに自然と心が温かくなる。



「紗英行くよー!…ってどうした?」



同学年の部員が私の姿を見て近づいてきた。



「…ううん、なんでもない」



目尻に溜まった水分をそっと片手で拭う。




あたりをキョロキョロ見渡してみたが、姿は見えない。




でも忘れるはずがない、大好きな人の香り。




宗平と同じ香りの香水。


< 155 / 173 >

この作品をシェア

pagetop