永遠に叶えたい愛がある。
「なんで止めるのよ、マスター!」
同じ勢いで綾美さんはマスターに歯向かった。
やれやれ、とため息を吐きながらマスターは綾美さんの肩をポンと叩いた。
「ごめんね。谷岡さん、ちょっと声が大きいかな」
そう言ってマスターは周りのお客さんに小さく頭を下げた。
「…っ!もういいっ」
「あ…」
マスターの手を振り払うと綾美さんは鞄を持って勢いよくお店から出て行った。
「マスターごめんなさい…」
綾美さんの背中を追っていたマスターの視線が私を向く。
しんとしていた周りのお客さんも何もなかったかのように過ごしていた。
「いやいや。声が大きかったから聞こえてしまったんだけど…宗平くんと知り合いだったのかい?」
「…はい。まさかマスターと知り合いだとは知らなくて」
宗平もそんなことを一言も言っていなかった。
初めて来たときはコーヒーの頼み方も知らなかったのに。
「まだ宗平くんが小さいときにお母さんと彼女とよく3人で遊びに来てくれたんだよ。大きくなってからは宗平くんとは会っていないがね」
実は宗平はこの喫茶店のことを覚えていたのかもしれない。
誰にも言えず一人で県外に出て淋しい思いをしていたの?
だから小さいときの記憶のあるこの町に来て、この喫茶店に来たのかも。
そう考えると宗平の抱えていたものって計り知れないほど辛いものだったのかもしれない。