星が降るようで
「よっ」

 放課後。靴箱の影からいきなり顔を出した優太に、私は靴を取り落としそうになった。

「ちょっと、びっくりさせないでよ」

「逆になんでそんなに驚くんだよ。一緒に帰ろうぜ」

「いいけど……」

 優太とは家の方向が同じだ。特に用事がない限り、こうやって一緒に帰っている。

『柳田ってさー、絶対理沙のこと好きだよね』

 頭に浮かんだ陽菜の台詞に、分かってるよと返事をする。
 本当は分かっていた。優太が自分に好意を持ってくれている事。
 私と一緒に帰るためにわざと教室を出るタイミングを合わせていることも、話しかけてくる時のちょっと照れたような顔も。そしてそれを、「理沙」は満更でもなく思っていることも……

 そっと横目で見ると、優太は嬉しさを隠そうともしない笑顔でたわいもない話を続けていた。
 優太の横にいると安心する。そう思う一方で、私の中のまゆこが違う、違うと否定する。あの人とは全然違うと。そして私の本心は、泣きながら首を振るまゆこにいつも乗っ取られてしまうのだ。
 このままじゃ駄目だ。誠一への恋心に埋め尽くされた中に少しだけ残る理性でそう自覚する私は、一つ、ずるい賭けをしていた。
 ――もしも優太に告白されたら、その時は誠一の事を忘れよう。
 我ながらひどい発想だと思う。けれどこうやって外側から強制的に変化を促さなければ、私は永遠にまゆこを手放す勇気が出せそうになかった。

「あのさ、ちょっと聞いてもいいか」

 急に神妙になった声に、私はドキリと体をこわばらせる。

「昼休みの事なんだけど、理沙、あれからちょっと様子がおかしいよな……沢田達が言ってたの、本当?」

「陽菜が言ってたのって……」

「理沙に好きな人がいるって話」

息を飲む。こんなにはっきりとした単語を優太が使うのは初めてだ。足を止めた私に優太が振り返って向かい合う。

「俺の知ってる奴?」

 震える足がすくんで動かない。本当は今すぐここから逃げてしまいたいのに。

「今まで言えなかったんだけど、俺」

 やめて。やめて。言わないで。まだ終わらせたくない。

「理沙のことがずっと好きだったんだ」

 私たちの歪な、愛しい時間を……
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