星が降るようで
 誠一は四十二歳の時、交通事故で死んだという。
 昨夜のノートに書いてあった通り一人で生きてきた彼は、死ぬ間際にホッとしたのだと語ってくれた。これでやっと、まゆこに会えると。
 初めてそれを聞いた時は嬉しかった。生前、彼に幸せになって欲しいと言ったのは自分のくせに、彼の人生を占めるのが自分だけだったという事実に、どうしようもないほどの喜びを覚えた。
 賭けとして決めていたとはいえ、本当にこんな想いが目の前の幼なじみと付き合うことで消えるのだろうか。いざその局面になってみると戸惑いしかない。それ以前に優太と付き合う資格なんてないだろう。
 ノートの中でだけ与えられる、『愛してる』の文字に毎晩縋るような気持ちでいる、こんな私に。

「返事は今じゃなくていいんだ。ごめん、いきなりこんな事言って困らせただろうけど……俺、本気だから。
少しでも恋愛対象として考えてもらえたら嬉しい」

 何も言えずに俯く私に、優太はそれ以上何も言わなかった。静けさが心を押しつぶす。
 夏の面影が消えた風は、もう随分と冷たくなっていた。

「……あ」

 優太の呟きにつられて顔を上げて……息が、止まるかと思った。
 目の前に兄がいる。掠れたオレンジに伸びる彼の影が、私の足首にそっと触れていた。

「あ……智兄、久しぶり」

「久しぶり」

 どこから聞いていたのだろう。涼しい顔で答える兄に、泣きたい気持ちになる。

「じゃあ理沙、また……えっと、月曜日に」

 優太は気まずそうに笑って、足早に角を曲がっていく。振り向くと兄の姿はもうどこにもなかった。
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