星が降るようで
「ああほら、まゆこ。この道覚えてる?」

「覚えてる。高校の通学路だ……」

 一言一言噛み締めるように言葉を返す。駅を出て細い一本道を真っ直ぐ行くと、踏切の向こうに急な坂道が現れる。毎朝誠一と自転車をうんうん押しながら登っていたそのてっぺんに、私たちが通っていた高校があった。

「わあ、変わっちゃったなあ……」

 フェンスの向こうの白い校舎は、記憶していたものと随分姿が違う。
 と、おもむろに誠一は例のノートを取り出すと、ページを開いてクスクスと笑い出した。

「ああ、確かに変わっちゃったね」

 覗き込むとそこには私の描いた高校の絵。

「あー! それもうやめてよー!」

「ははは、さすが画伯。相変わらず腕は落ちてないようで」

 取り上げようとした私の手をかわして彼が笑う。昔もよくこうやってじゃれ合うように喧嘩してたっけ。美術の時間なんて、いつも隣に来てはからかって……

「うわっ」

 思いっ切り伸び上がった瞬間、足首ががくんと崩れた。バランスを失って身体が傾く。

「おっと」

 思わずギュッとつぶった目をゆっくり開くと、力強い腕に肩を支えられていた。思いがけず近づいたその距離に、どくんと心臓が跳ねる。

「まったく……そういうドジな所も、変わってないな」

「ご、ごめん……」

 慌てて体を引いたその瞬間、目の前の顔が何かに耐えるようにグッと歪むと……肩を引かれ、そのまま温かい胸に強く強く抱きしめられた。

「せ……誠一……」

 私の呼びかけに応えるように、より強く腕に力がこもる。ドクン、ドクンと彼の鼓動が押し当てた耳から私を震えさせる。
 ……これは終わりの旅だ。
 前世の恋を終わらせる旅。私は腕を彼の背に回して抱きしめ返す。
 昨夜部屋の前で目を合わせた瞬間から、ちゃんと分かっていた。分かっていて、ついてきた。

「誠一」

 ねえ、私やっぱりドジだね。あれだけ生まれ変わったらまた会いたいって願ってたのに、妹なんかに生まれてきちゃって。だいたい私の方が先に死んだんだから、せめて姉だろうに。きっとあの世でぼんやり待ちくたびれているうちに、先に誠一が生まれ変わっちゃって慌てて後を追いかけたんだわ。ほんとに、ドジにも程があるね……
 泣き笑いの言葉は、けれど声にはならず、私はただ黙って彼を抱きしめ続けていた。
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