こんな恋のはじまりがあってもいい
真野のひとりごと1
「うわ……」

これが、あの時思わず漏れた第一声だった。




放課後
いつも何気なく歩く並木道。

数メートル前に、あの子を見つけた。
春から気になるクラスメイトの、女子。
市原あかね。

元気がよくて、物怖じしない。
友達想いでーーいつもニコニコしている。
勉強もキチンとしてるし、普段も真面目な印象。
なんとなく、気になった。

ひとりで歩いているのは珍しい。
確か、いつも吉野ミキと仲良く帰ってたはずーーーーー


そう思いながら彼女をみると、
何故か立ち止まっている。

「?」

少しずつ、距離を縮めていった。
そしてーーー
だんだん彼女が見ている向こうの景色が見えてきた時

(えっ)

思わず声が出そうになり、グッと息を止めた。


数メートル先に、仲良さげにキャッキャと歩く二人がいる。
その相手が

(あれは…)

まさに今、彼女の友達である吉野が
男子生徒と楽しそうに歩いているのだ。

(マジかよ…)

別に吉野が誰と歩こうが、俺には関係ない。
だけどーーーーその相手が

今、俺の前に立ち尽くしている市原が
想いを寄せているであろう人物、東圭太だった。

二人の様子からして、ただの友達という雰囲気ではなさそうだ。
仲良く手をつないで歩いているのだから。




市原と吉野は、クラスでいつも一緒にいるところをよく見かける。

そして
そこにいつも、目立つ野郎が顔を出していることも、知っている。
声もデカけりゃ態度もデカイ、東だ。
いつも適当なチャライ感じの、俺にとっては面倒くさいタイプ。

さらに
東と市原がいつも漫才のような掛け合いをしている姿もよく見かけていた。
てっきり二人はそういう仲なのかと、思っていた。
もちろん周りもそう囃し立て、二人が否定するというパターンだ。

(だけどこれは……)

どうやら、市原の想いは一方通行だったらしい。
しかもちゃっかり隣にいるのが、友達ときたもんだ。

さて、どうしたものか。

立ち尽くす彼女を追い抜くわけにもいかず、
少し後ろで考えた結果。

俺は一度、来た道を戻り
先ほど通り過ぎた自販機の前に立ち、あったかいココアを2本買った。

そして
彼女のそばにそっと近寄る。

どう声をかけようかと考えあぐね
そっと斜めから顔を覗き込もうとしたが

(……!)

目を真っ赤にして、今にも涙がこぼれ落ちようとしている。
けれども必死で耐えるような、その表情に
見とれてしまった。

その悲しそうな顔をどうにかしてやりたい、と
抱きしめたい衝動をグッとこらえ

気づかれないように小さくため息をつき
彼女の額にコツン、と優しく缶を当ててみた。


驚く彼女もまた、可愛い。
こんな時にそんなことを考える自分の浅はかさに苦笑いしつつ

なんとかしてあげたい、その一心で
けれども負担にならないように
努めて明るく、声をかけた。

「ま、とりあえず一本いかが?」
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