こんな恋のはじまりがあってもいい
真野のひとりごと3
翌日。
何も知らない吉野の声が耳に届く。
思わず声の方を見ると、いつもどおりのような市原が見えた。
会話がそっけない気もするが
昨日の今日だ、無理もない。
ちらりと確認した後、そんなことを思いながら
俺は次の授業の用意を始めていた。
すると、案の定。
ヤケに耳障りなノイズが入る。
アイツだ。
周りはいつものことだ、と思っているだろう
けれども
少なくとも、市原だけは違う。
もう、今までの付き合いじゃない。
なのに。
アイツときたらーーー
そう思ったら無性に腹が立ってきて
思わず口を挟んでしまった。
「あー市原、俺ワーク借りたまんまだわ。まだ写せてないからもうちょっと待って」
もちろん嘘だ。
ワークは完璧に仕上げている。
だけど今、彼女をアイツから引き離す手段は
これしか浮かばなかった。
「…真野、くん?」
彼女は驚いてこっちを見ている。
悪い、市原……許せ。
邪魔したかもしれない。
本当は、いつもどおりにしたかったのかもしれない。
だけど
俺が、モヤモヤした。
なんなんだこれ。
なんて勝手な感情だろうか。
おかげで、東は悔しそうに自分のクラスへ引き返した。
(…よし!)
内心ガッツポーズを取る勢いだったが
市原と目があってしまった。
(伝われ)
俺の狙いがなんだったのか。
無駄な言い訳はしないけど
せめて少しでも伝わればと、目配せをしてみた。
彼女はキョトンとしていたが、少しはにかんだように見えた。
最高。
これはたまらない。
舞い上がる気持ちを抑えつつ、冷静を装って
教科書をパラパラとめくった。
放課後ーーー
俺はいつもどおり、校門を出てすぐにある自動販売機でココアを1本買い
プルトップを開けようとした時。
校舎から急ぐように出てくる彼女を見かけた。
咄嗟にもう一本、ココアを買い足し
校門をくぐろうとした彼女に声をかける。
「おーい、そんなに急いで何処へ行く」
何かあったのだろうか。
単なる急ぎの用事があるのなら構わないのだけど。
「え、別に急いでないよ」
彼女は驚いたように俺を見て、なんでもないといったそぶりでそう答えた。
これはきっと
(二人に合わないように、か……)
「あ、そう」
何も知らないフリして、昨日と同じように並んでみる。
ついでに、ココアも手渡してみる。
「なんでこんなの持ってんの?」
怪しまれたようだ。
「ん?さっきそこで買っただけ。俺、ココア好きでさ〜なんかホッとしない?」
これは本当だ。
秋冬の寒い季節はココアを飲むと安らぐ。
だからこそ、彼女にも渡したのだ。
どうせなら、一緒にあったまろうじゃないか。
カバンから出てきた2本目のココアを見て、市原は目を丸くした。
そんな彼女が面白くて可愛い。
(分かりやすい)
「なんであったかいの2本も……?」
「だから、ココア美味いからだよ。2本くらいすぐ飲めるっしょ」
無理やりこじつけた。
もちろん本当は、2本も飲まない。
「え〜2本も飲んだら甘いよ」
「んなこたないって。全然いける」
適当に調子を合わせて話す。
内容なんて本当は、どうでもいいんだ。
さっきの辛そうな心が
少しでも和らげばいい。
次第に、俺に慣れてくれたのか
彼女は自分のことを話しだした。
好きな飲み物はカフェオレだということ
(今度飲もう)
他にも、好きな音楽や食べ物
いろんなことを話してくれたし、聞いてくれた。
お互いのノリが心地よくて
ポンポン会話が弾む。
やっぱり、市原とは気が合いそうだ。
そんなことを確認して、今日も同じ分岐点に立つ。
「じゃーな、また明日」
こうやって少しずつ
彼女との時間が共有できればいい。
そんなことを想い、背を向けて歩く。
すると後ろから声が飛んできた。
「うん、また明日。ワーク忘れないようにね」
思わず振り返ってしまう。
「忘れてないって」
「知ってる」
咄嗟に返ってきた返事に、今日のあの出来事かと思い出す。
(伝わってたみたいだな)
二人の暗黙の了解みたいなやりとりがおかしくて
一緒に笑ってしまう。
よかった。
変に思われなくて。
嫌がられてなくて。
ホッと胸をなでおろし、少し歩いたところで
どうしても、もう一度。
彼女の姿を見たくて、振り返った。
(!)
彼女が、じっとこっちを見ていたのだ。
自分の気持ちを見透かされたのかと思った。
あまりの恥ずかしさに、ついぶっきらぼうになる。
「なに見てんだよ」
「べ、別に!夕焼けが綺麗だなって思って」
咄嗟に言った彼女の頬は赤色で
それが空の色なのかどうなのか分からず
釣られるように同じ空を見上げた。
(夕焼け、か)
「あー綺麗だな。うん。」
夕焼けも、彼女も。
目が離せなくなりそうで、自ら誤魔化すように声を出してみる。
「いいから早く帰れよー」
「はーい。またねー」
手をぶんぶんと振る市原がとても可愛くて。
しばらくはこんな風に
二人で帰るのも悪くないと、思った。
何も知らない吉野の声が耳に届く。
思わず声の方を見ると、いつもどおりのような市原が見えた。
会話がそっけない気もするが
昨日の今日だ、無理もない。
ちらりと確認した後、そんなことを思いながら
俺は次の授業の用意を始めていた。
すると、案の定。
ヤケに耳障りなノイズが入る。
アイツだ。
周りはいつものことだ、と思っているだろう
けれども
少なくとも、市原だけは違う。
もう、今までの付き合いじゃない。
なのに。
アイツときたらーーー
そう思ったら無性に腹が立ってきて
思わず口を挟んでしまった。
「あー市原、俺ワーク借りたまんまだわ。まだ写せてないからもうちょっと待って」
もちろん嘘だ。
ワークは完璧に仕上げている。
だけど今、彼女をアイツから引き離す手段は
これしか浮かばなかった。
「…真野、くん?」
彼女は驚いてこっちを見ている。
悪い、市原……許せ。
邪魔したかもしれない。
本当は、いつもどおりにしたかったのかもしれない。
だけど
俺が、モヤモヤした。
なんなんだこれ。
なんて勝手な感情だろうか。
おかげで、東は悔しそうに自分のクラスへ引き返した。
(…よし!)
内心ガッツポーズを取る勢いだったが
市原と目があってしまった。
(伝われ)
俺の狙いがなんだったのか。
無駄な言い訳はしないけど
せめて少しでも伝わればと、目配せをしてみた。
彼女はキョトンとしていたが、少しはにかんだように見えた。
最高。
これはたまらない。
舞い上がる気持ちを抑えつつ、冷静を装って
教科書をパラパラとめくった。
放課後ーーー
俺はいつもどおり、校門を出てすぐにある自動販売機でココアを1本買い
プルトップを開けようとした時。
校舎から急ぐように出てくる彼女を見かけた。
咄嗟にもう一本、ココアを買い足し
校門をくぐろうとした彼女に声をかける。
「おーい、そんなに急いで何処へ行く」
何かあったのだろうか。
単なる急ぎの用事があるのなら構わないのだけど。
「え、別に急いでないよ」
彼女は驚いたように俺を見て、なんでもないといったそぶりでそう答えた。
これはきっと
(二人に合わないように、か……)
「あ、そう」
何も知らないフリして、昨日と同じように並んでみる。
ついでに、ココアも手渡してみる。
「なんでこんなの持ってんの?」
怪しまれたようだ。
「ん?さっきそこで買っただけ。俺、ココア好きでさ〜なんかホッとしない?」
これは本当だ。
秋冬の寒い季節はココアを飲むと安らぐ。
だからこそ、彼女にも渡したのだ。
どうせなら、一緒にあったまろうじゃないか。
カバンから出てきた2本目のココアを見て、市原は目を丸くした。
そんな彼女が面白くて可愛い。
(分かりやすい)
「なんであったかいの2本も……?」
「だから、ココア美味いからだよ。2本くらいすぐ飲めるっしょ」
無理やりこじつけた。
もちろん本当は、2本も飲まない。
「え〜2本も飲んだら甘いよ」
「んなこたないって。全然いける」
適当に調子を合わせて話す。
内容なんて本当は、どうでもいいんだ。
さっきの辛そうな心が
少しでも和らげばいい。
次第に、俺に慣れてくれたのか
彼女は自分のことを話しだした。
好きな飲み物はカフェオレだということ
(今度飲もう)
他にも、好きな音楽や食べ物
いろんなことを話してくれたし、聞いてくれた。
お互いのノリが心地よくて
ポンポン会話が弾む。
やっぱり、市原とは気が合いそうだ。
そんなことを確認して、今日も同じ分岐点に立つ。
「じゃーな、また明日」
こうやって少しずつ
彼女との時間が共有できればいい。
そんなことを想い、背を向けて歩く。
すると後ろから声が飛んできた。
「うん、また明日。ワーク忘れないようにね」
思わず振り返ってしまう。
「忘れてないって」
「知ってる」
咄嗟に返ってきた返事に、今日のあの出来事かと思い出す。
(伝わってたみたいだな)
二人の暗黙の了解みたいなやりとりがおかしくて
一緒に笑ってしまう。
よかった。
変に思われなくて。
嫌がられてなくて。
ホッと胸をなでおろし、少し歩いたところで
どうしても、もう一度。
彼女の姿を見たくて、振り返った。
(!)
彼女が、じっとこっちを見ていたのだ。
自分の気持ちを見透かされたのかと思った。
あまりの恥ずかしさに、ついぶっきらぼうになる。
「なに見てんだよ」
「べ、別に!夕焼けが綺麗だなって思って」
咄嗟に言った彼女の頬は赤色で
それが空の色なのかどうなのか分からず
釣られるように同じ空を見上げた。
(夕焼け、か)
「あー綺麗だな。うん。」
夕焼けも、彼女も。
目が離せなくなりそうで、自ら誤魔化すように声を出してみる。
「いいから早く帰れよー」
「はーい。またねー」
手をぶんぶんと振る市原がとても可愛くて。
しばらくはこんな風に
二人で帰るのも悪くないと、思った。