こんな恋のはじまりがあってもいい
大晦日
まだ昨日の事のように、暖かいクリスマスの思い出に浸っていると
いつの間にか、12月の最後という日が目の前に来ていた。

朝、何気なく目覚めてカレンダーを見て気付く現実。

ああ、年賀状に掃除に……学校の課題!!!
酷くボンヤリしすぎていたようだ。
なんにも終わっていない。

これはヤバイと慌てて机に向かう。
とにかく課題は片付けなければ。
正月早々、顔を合わす親戚や家族にあれこれ言われるのが目に見えている。

黙々と机に向かい、指定されたワークを片っ端から解いていく。
ああ、彼は今何をしているんだろうか…

ふいに、そんな事を考え出してしまう。
いけない。
これで昨日も結局メッセージのやり取りを延々と繰り返して寝てしまったのだ。

きっと、同じようにしている彼も
そんなに勉強できている状況ではないだろう。
そう気づいて。

お互いに、よくない。
やるべき事はやっておかないと。
私のせいで彼の学業に差し支えが出るのは申し訳ない。

彼が毎回きちんと課題をこなす人なのは既に知っている。
だからこそ、足は引っ張りたくない。

「……課題が片付いたら、連絡しようっと」

自分の中でそう決めて、スマホを見ないように
通知をオフにしてベッドへ押し込む。
その後はひたすら頭をフル回転させていた。



夜、夕食を終えると早々に部屋へ戻ろうとする。
あまりにも珍しい光景に、母が驚いていた。
「大晦日なのに、どうしたの。明日雪でも降るんじゃない?」
「失礼ねっ!たまには私だってちゃんとするんだから」
「今から張り切ってもお年玉の金額は変わらないわよ」
「もう!そんなんじゃないって」
とんだ母親だ。せっかくやる気を出した娘に何を言うのか。


イライラしながらも、とにかく決めた事を遂行する。
早く片付けて、彼に連絡するんだ。
ああ、早くスマホ触りたい。


なんとか終わりの目処が立ちそうだという所まで進めた。
わたし、がんばった。
自分で褒めておこう。

まだ終わってないけど、年明けにちょこっとやれば大丈夫。
そんなわけで、解禁。


早る気持ちを抑えて、ベッドに押し込んだそれを取り出す。
ボタンを押すと、通知の画面が出ていた。
来たのはかなり前ーーー
ちょうど、私が机に向かった事の時刻だった。

「おはよー、昨日寝落ちてごめん。そういや課題は順調?」

そう、昨日は彼の返事が来なくなったのを確認して寝たから
それは良いとして。

なんてタイムリーなメッセージを送ってくるのでしょうか。
笑うしかない。

いやいやいやいや、朝から全く返事してないとか
返事遅くてごめん、とすぐにタップする。

「ご名答。その課題を朝から必死にやっておりました」

と送っておいたらすぐに返事が来たようで。

「お疲れ様。まさか全部終わったとか?」

「まさか!終わらないよ〜でもとりあえず終わりが見えたからヨシ!」

「おー、それは良かった。(拍手)」

サクサクお返事が来るからつい夢中になる。

すると彼から即座に来た連絡。
「本当は今日、一緒に課題やろうかと思ったんだけど(笑)俺もほぼ片付いてしまったよー」


え、
「ええええええええええええ」



しまった何てことを……!
大晦日だし彼は忙しいと勝手に思い込んでいた。
夜だけど慌てて電話する。

「はーい?」
彼の声だ。
なんだかご機嫌そうな声ではあるけど、とにかく謝らなければ

「ああぁぁぁぁごめんなさい!真野くんも課題やってたら邪魔しちゃいけないって思ったから今日は連絡控えようとしてスマホ見ないようにしてた〜!!!!!!!!」

文字を入力するより声で伝えたほうが早い。
電話の向こうで、クックッと笑いを堪える声がする。

「勢いよすぎ。」

あはは、と笑いながら彼は優しい声で返してくれた。

「いや、返事ない時点で忙しいんだなって思ったから全然いいよ。課題ちゃんと進んでるなら良かった。」
「あぁ、ほんとせっかくの時間を…ごめんなさい」

謝るしかない。
そんなことより、勿体なかった!!!!!!
それしかない。

「せっかくの…真野くんとの時間をおぉぉぉ…!!!あぁ〜早く気付けば良かった〜!!!!」

ベッドに突っ伏しながら呻く。
真野くんはずっと電話の向こうで笑っている。

「じゃあさ、変わりにひとつ。お願いしてもいい?」
「なんでもどうぞ」

こうなりゃなんでもやりますよ。
せっかくの時間を取り戻せるのなら…!!!!!

「初詣、一緒に行こう」

「……!!!!!」

ちょ、ちょっと待って
お詫びがそれってちょっと

私の無言に気を使ったのか
彼は妥協案まで出してくれた。
「……あ、もし忙しいなら今度会えた時でいいんだけどさ」
「あっ違うそうじゃくて……行ける…行けるよ…!!!てか、行きたい!!!」

いつもテンパってしまって反応が遅くなるのが申し訳ない。
だって真野くんてば、いつもそんな嬉しいことばかり言ってくれるから
免疫のない私は狼狽えるしかないじゃない。

私の慌てた返事に彼はまた笑う。
「どんだけテンパる」
「だってそんな、さりげなく言ってくれるからホラ…!!!」
「いや、全然さりげなくないし」
「いやいやホントさりげないよ」
ふふふ、と二人で笑い出す。
なんでもない会話なのに、どうしてこんなに楽しいんだろう。


というわけで。
明日は二人で、初詣に行くことになった。
今夜は眠れる気がしない(多分寝るけど)
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