こんな恋のはじまりがあってもいい
初詣に行こう〜真野目線1〜
元日。

家族とのんびり新年の挨拶を交わし、おせちをつまみながらテレビを眺めるーー
これが、ここ数年のお正月スタイルだった。

だけど、今年は違う。

そわそわと時計を気にしながら、身支度を整える。
いつもなら昼過ぎまで寝ているはずなのに、今朝はバカみたいに早く目が覚めた。
遠足前の小学生か。

鏡の前で髪を触っていると、背後に人の気配がする。
「おーおー、どうした色気付いて」
からかうように小突いてきたのは、2つ年上の姉ーーミサだ。
俺は知らん顔して最終チェックを施す。

「なに、カノジョと初詣?」
ニヤニヤした顔で聞いてくるあたり腹が立つ。
が、今日の俺は寛容だ。

「そうそう。」
それだけ返事をして、その場をやり過ごした。

いつもと違う反応に驚いたのは姉の方だ。
「ええええええええ!?彼女ォ!?」
マジで、ねえどんな子、今度紹介しなさいよ、とベタな台詞を背中に受けつつ
「いやだ」
と本音で対応しておく。
面倒だからだ。

「なによーせっかくの春でしょー応援させなさいよー」
ぶーぶーうるさい姉だ。
「そのうちね」
はいはい、と俺は早足で廊下を進み、玄関を出た。


新年早々絡まれるのはいつものことだ。
一人でのんびり過ごしていても
彼女の一人や二人くらい、ってうだうだ言われるのがオチだから。
今回は良いスタートだったと言えよう。


心なしか早まる足に身を任せつつ、彼女の家のインターホンを鳴らした。
彼女の家族が出られたら挨拶しなきゃね……なんて少し背筋を伸ばしたとき、
「はーい」
普通に、彼女が出てきた。

「あ…あけましておめでとう」
数日前に会っているのだけれど、変わらない彼女に安心しつつ。
きちんとまずはご挨拶。

「あ、うん。おめでとう」
柔らかい笑顔で、少しはにかむ彼女がとても可愛くて。
さらに、意図せずお揃いになったマフラー。
心の中でガッツポーズを取る勢いだ。

思い切って、誘ってよかった。





ことの始まりはーー昨日。
前日に遅くまでメッセージのやり取りで盛り上がってしまい、いつ『おやすみ』を切り出そうかと考えているうちに寝落ちてしまったようで。

慌てて翌朝連絡したものの、全く既読すら表示されなくて焦った。
彼女も寝ていたのかもしれない。
そう思い、そのうち返事が来るだろうと
俺は自分のやるべきことを片付けていた。

だけど
お昼を過ぎても、夕方になっても
返事が来る気配がない。

ちょっと、心配した。
何かあったのだろうか。
でも、大晦日だ。家族との用事で忙しいだけかもしれない。

そんな風にモヤモヤしたまま、夜を迎え
やっときた通知音。
ごめん、から始まりーー課題に追われていたとの返事。

ああ、なんだ。
彼女らしいや。
あれこれ心配した自分が少しおかしくて。恥ずかしく。

でもちょっと今日1日空振りしたような気分を持て余したので
意地悪を言ってみたくなった。
まるでガキみたいだ。

本当は、一緒に勉強しようと思っていたと伝えた。
メッセージのやり取りで時間を使うなら、いっそのこと一緒にいて課題を片付けるほうが有効だと思ったのだ。

するとすぐに電話がかかってきてーー

あかねの方から電話してくれたのが、嬉しかった。
声が聞きたかった。
慌ててかけてきてくれたことも、嬉しかった。
やばいと思ったんだろうな、と。

少し浮かれた声で出ると、しょっぱなから機関銃のように謝り倒す声が聞こえる。
もうおかしくて愛しくてしょうがない。
自分のために、必死になってくれているのだ。
今日を無駄に過ごしたと落ち込んでいる姿も、電話越しに想像できて面白い。

予想以上の反応に、つい調子に乗ってしまった。
初詣のお願い、だ。
ちょっとした冗談のつもりでーーーでも半分期待もしながら。

すると、彼女は一瞬言葉を失っていたが
すぐに反応して快く承諾してくれた。

無言の間、一瞬やりすぎたんじゃないかと焦ったけど
そうじゃなかった。
驚いていたみたいで、それもまた嬉しく。


そういうわけで、今日は晴れて
新年一番に彼女に会えた。
今年は幸先良さそうだ。





二人で、近所の神社へと向かう。
「……誰か会うかなあ」
ぽそっと、彼女が言った。
「誰かに会うの、心配?」
二人でいるのを見られるのは、恥ずかしいだろうか。

「ううん、逆。誰かに会えたら楽しいだろうなーって」
なんだ、良かった。
ただでさえ公開告白みたいなことをしてしまっているから、
これ以上好機の目にさらされるのは嫌じゃないかと焦った。

俺は、考えすぎだろうか。
こんなにも人のこと、あれこれ考えた事なんてない。


隣の彼女はご機嫌で、鼻歌まじりに前を向いて歩く。
その歌がまた、この間一緒に見た映画の主題歌だったりして。
「その曲、いいよね。俺もダウンロードした」
なんて新しい話題につながる。

一緒に歩くだけで楽しくなる相手がいるなんて
思いもしなかった。
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