こんな恋のはじまりがあってもいい
初詣に行こう〜真野目線2〜
神社は、初詣に来た近所の人たちで賑わっていた。
まずは参拝をしようと列に並ぶ。
すると後ろから、聞きなれた声が聞こえた。

この、耳障りな声は

「おお!あけましておめでとー…って新年早々見せつけてくれるじゃん」

東だ。

「あけましておめでとー」
彼女は何事もなかったかのように、アイツに挨拶をした。
「おめでとさん」
俺もそっけなく挨拶はしておく。

東はどうやら同じ部活の友達と来ていたようだ。
これは面倒くさい展開じゃないか。

「うわ、マジかーやっぱり二人付き合ってんの」
「あれ、冗談じゃなかったのかよ」
みんな口々に突っ込んでくる。

「はは、実はそうなんだー」
あかねは何てことないそぶりで軽く返事をしている。
そのことに少し、ホッとしていると。

「おい、真野。ちょっといいか」
東がいつになく真面目に、俺を呼んだ。

「?」
彼女にはそのまま並んでもらっておいて。
俺と東は少し人から離れたところへ歩いた。

突然、東が俺の方に腕を回して耳打ちしてくる。
「なあ、お前本気であかねに惚れてんの?」
何を突然言うのだろうか。
「前も言ったけど?なに、もう一度言わせたいわけ?」
なんとなく、喧嘩腰になってしまう。

ところが。彼はそれを聞いて
「……ならいい。」
と、腕を離し向かい合った。

「……よろしくな」
「??」
何の話かサッパリ分からず、俺は首をかしげた。

「アイツのことだよ。俺はもう、用無しだろうから」
「……どういうこと?」
「言わせんな」
全く意味が分からない。

「……悪かったな」
彼はそう言って、バツの悪そうな顔をする。

ーーーもしかして。
「うん。」
俺は短くそう返事をして、それじゃと切り上げた。

もしかして。
彼は、本当は

ああ、今聞く話じゃなかった。
モヤモヤするじゃないか。

彼の言葉からひとつ。思い当たる疑問が湧いて。
それがしばらく、俺の頭をぐるぐると回った。


列に戻ると、あかねは心配そうに俺の目を見た。
声には出さないけど、『大丈夫』と答える。
後ろに彼らがいるから、直接は会話していないけど
彼女はホッとしたようだった。

なんとなく気まずくて、しばらく黙ったまま
そうすると、どうしても俺の中で気になる疑問が湧き出る。


もしかして、あの二人は
本当はーーー

足元がグラつく感じがした。
さっきまでフワフワとしていた足が、重い。

あかねは、俺の様子がおかしいことに気づいたようだ。
黙って、俺のコートの裾を引っ張った。
心配、させてるのだろうか

でも
やっぱり気になることがあって。

こんな気持ちのまま、参拝なんてできるはずもなく。
「やっぱちょっと待って」
俺はあかねを連れて、列から抜け出した。

「……やっぱり、なんか変だよ。真野くん」
東から少し離れたところで、彼女もやっと声を出した。

「うん……変、だよね」
なんて話そう。
なんて言えばいいんだろう。

少しの間、切り出すきっかけを探して黙っていた俺を
あかねは不安そうな顔をして、それでも待っていてくれた。

うん、やっぱり。
思いきって、話そう。


「あのさ……嫌なこと聞くかもしれないけど」
そう、前置きをして
「東のこと、もうホントに…いいの?」

彼女はドキリとした顔で、俺の目を見た。
その顔は、どっち?

「俺は、あかねのことが好きだけど…あかねは元々アイツが好きだったわけで…」
なんか俺、情けない。
昔のこと掘り出して。

話してて辛くなってきた。
こんなことを、俺は彼女に言いたかったのだろうか?

「なんで、そんなこと…聞くの?」
彼女は掠れた声で、そう言った。
もしかして、泣かせてしまっただろうか
でも、今は彼女の顔を見る勇気がなくて。


東の態度からして、
アイツはきっとーーーあかねのこと、ずっと気にしてたんだと思う。
なぜ吉野と付き合ったのかは知らないが。
アイツなりに、あかねを見てきたんだろうと思う。
中学の頃からの付き合いだ。俺の知らないことも、あっただろう。
二人に何があったのかは、知らない。

だからこそ、不安になるんだ。


あかねの質問に、そう答えられるはずもなく。
俺はどうしたらいいのか分からず、下を向いた。

短い沈黙の後。
小さなため息が聞こえて
「確かに、圭太のことはーー好きだったよ、中学の頃からずっと。」
うん、そうだよね。
何を今更、俺は聞いているんだろうか。

「でも、それは昔の私だよ。」
昔の。
思わず顔を上げると、あかねと目があった。
「今の私は、真野くんが好き。」

ああ、そうか。
そうだったね。

なんでこんなに不安になったんだろうか。
「はは……ありがとう」
ちょっと泣きそうになった。
照れ笑いで隠すけど。

「ごめん」
とにかく謝るしか、なかった。

「ううん、ホントのことだもん。仕方ないよ」
彼女はそっと、俺の横にくっつくように立ち
「覚えていて。誰がなんと言おうとーー今の私は、真野くんが一番なんだから。」
忘れるもんか。
絶対、覚えとく。

くすぐったくて、暖かい気持ちになる。
「…ありがとう」
俺を選んでくれて。
そんな風に、想ってくれて。

もう圭太ってば何吹き込んだのさ、とブツブツ怒っている彼女すら
可愛く見える。
過去は気にしなくていい。
今を見ればいい。

やっぱり、あかねは強い。
惚れ直した。

抱きしめたい衝動に駆られるが
ここは神社だと自分に言い聞かせ。

せめてもの気持ちで、肩を抱き寄せる。
「……あったかいモン飲んで、仕切り直し」
「じゃあ、ココアで」
二人で顔を見合わせて微笑む。


その後、列には並び直して
ようやく参拝。

普通に、これまでの幸せに感謝と、家族の健康と学業とーーーあれこれお願いして。
そっと、付け加える。

隣の彼女と、末長く幸せでいられますように。



帰り道、空から白いものが舞い降りた。
「……雪だ」
「あっ!」
俺の言葉にあかねが思い出したかのように大きな声をあげた。

「…お母さんの言ってた通りになった……私が張り切って勉強したから雪が降るって!!!」
もう!お母さんのせいだ、なんて怒る彼女もまた面白くて愛しい。
「雪もいいじゃん。」
俺はそう言って、彼女の手を取り自分のコートのポケットに入れた。

なんだかあの歌みたいだね、なんて
二人でまた、他愛ない話をする。

これでいい。
ささやかな幸せを、少しずつ。
たくさんの初めてを、二人で楽しみたい。
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