こんな恋のはじまりがあってもいい
バレンタインはどんな味
最近、あかねの様子が変だ。
だいたい、こういう時って
彼女は何か、悩んでる。

でも、いつもみたいに
「何かあった?」
と聞いても
「え?別に何もないよ」
なんて返事が来るだけ。

と、いうことは。
そこまで大した悩みじゃないのかもしれない。

だけど。
気になるモンは気になるワケで。

「嘘。なんか悩んでるっしょ」
なんて言おうものなら
「悩んでるけど、悩んでないから大丈夫」

一体どういう話なのか、サッパリ分からない。
これは女心ってヤツ?

そんなことより、と適当に世間話にすり替えられて
彼女の違和感はいつも拭えないままだ。

何か、俺に言いにくい事でもあるのだろうか。
それってーーーーー


「真野くん」


そんな事をぐるぐると考えていた
とある日の昼休み。
突然、あかねは俺のところに来て両手を合わせて拝んだ。
「?」

「ごめん!しばらくミキと帰ると思うから…」
これまでのパターンから咄嗟に察して、尋ねてみる。
「……何か、あったの?」
ところが、彼女は少し言いにくそうに困った顔で言った。
「いや、大したことじゃないんだけど。ちょっとね」

「……ふうん」
わかった、と返事はしたものの
なんとなく、首を捻りたくなった。

でも
とりあえず、俺に言いに来たってことは
それなりに理由があるんだろう。

普段の様子を見るからに
あかねと吉野がいつもどおりなのは分かる。
何か揉めてるわけじゃ、なさそうだ。

それならいいか、と
俺は久しぶりに、ひとりで帰ることになった。

右側に彼女がいないのが、少し寂しい。
それだけ、いつも隣に居たということが
改めて彼女の存在のありがたさを感じたりもして。

せめて電話をしよう、
メッセージくらいは送ってもいいかな
なんてことをぼんやりと考える。

ところが。
メッセージの既読は滅多につかない。
返事はすぐにこない。

電話をしても、何かそっけない感じで
「あー、ごめん!ちょっと今忙しくて」
なんてサクッと切り上げられてしまう始末。

一体、彼女に何があったのだろうか。
きっと、彼女なりに何かあるのだろうと思うように努めるけど
少しばかり、拗ねたい気分だ。


そんな日がしばらく続いた後。
俺は偶然、見かけてしまった。
(おや、あれは)

駅前から、彼女の家の方角へ向かう道
あかねと、見知らぬ男子学生。
制服からして、同じ学校では無いようだ。

彼女は何やらふくれっ面で隣の男に文句を言っているようだけど
相手はさほど気にしていないようだ。
そう、まるで
東とのやりとりを思い出すようなーーー

(まさか、ね)

一体、彼は誰なのか。
なんとなく、これまでの余所余所しさと
今回の姿が変に一致してしまって
考えすぎだと分かっていても

「……はは、情けねえ」

見なかったことにしたい。

だけど、そう簡単に記憶を塗り替えられるほど器用でもなく。
笑って見過ごせるほど大きな器も、ない。

いや、まだ何も決まってない。
何も、分かってない。

ただ、そう自分に言い聞かせて
俺は足早に用事を済ませて、帰宅した。


その日はどうしても、連絡する気になれなかった。
彼女から来たメッセージも、悪いけど見なかったことにした。
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