こんな恋のはじまりがあってもいい
湧き上がったた感情のままに声を出してしまい、ハッと我にかえる。
「……え」
戸惑うような彼女の声が聞こえたが、
俺はその表情を見ることができなかった。
違う。
そうじゃない。
「……悪い。そういう意味じゃないんだけど、ほら……」
(俺たち、アイツの話ばかりしてねえか?)
そう言いそうになって、思いとどまる。
続く言葉が見つからない。
アイツの話が出るのは、これまでを考えれば当たり前のことで
問題はーーー
「……ごめん」
俺が何かを言うより先に、ミキのか細い声が聞こえた。
湿った風が、俺たちの間を通り抜けた。
雨が、降りそうだ。
思い空気を振り払いたいのに、
その術が見つからない。
「……悪い。ちょっと考えなしだった」
素直にそう謝るが、そう簡単に流れが変わるわけもなく。
この先どう切り替えようかと空を仰いだ時だった。
「……私たち、あかねの話ばかりしてるよね」
ついさっき、俺が言い淀んだ言葉と同じセリフを
彼女の口から聞いた。
「そうか?」
とぼけてみるが、きっとミキには通じないだろう。
認めたくないんだ。
それが、何を意味するのか。
「……意地悪ばかりしちゃって、ごめん」
「意地悪?」
「圭太くんが、あかねの事見てるから…つい言っちゃうんだ」
「……」
心臓が変な音を立てた。
「私もね、あかねが好きだから……なんとなくね、分かるんだよ」
「…………」
「だけど、私の事も知ってほしかった」
知ってるよ。
アイツと同じだけ、お前も見てきた。
同じように笑い、同じように頑張っているところも。
いつもあかねに対して遠慮していたことも。
だからーーーこうして自分から近付いて来てくれた事に驚いたし、嬉しかったんだ。
でも、それとこれは違う話だってことも、薄々感づいていてーーー
何から言葉にすればいいのか。
どうしたら、伝わるんだ。
もどかしい。
最近、こんなことばかりだ。
「あかねの話をすれば、圭太くん喜んでくれるし話も弾むからいいと思ってた。冗談言っても返してくれるし」
ぽつり、と地面が黒く滲んだ。
「だけど……やっぱり寂しいよ」
こういう時、俺はどうすればいいんだろう。
真野だったら、どうするんだろう。
衝動に任せて目の前の彼女を抱き寄せてやりたいけれど
そうする権利が、俺には無い気がして。
「……ごめん」
ただ、不甲斐ない自分を
謝るしかなかった。
地面の黒い滲みが広がり、ポツポツとしていた雨が
俺たちの帰りを促すように強く降り始める。
「……とりあえず、帰ろう」
とにかくこの場から、動きたかった。
彼女を家へ送った後
「じゃあ、また」
とは言ったものの、
それからしばらくの間
お互いどちらともなく気まずくて
自然と距離が開いてしまった。
季節の移り変わりが、時が経つのを嫌でも感じさせる。
ミキと過ごしたこの数ヶ月は本当に楽しかったから
そんな風に思われていたことが
正直、ショックだった。
だけど、
そう思わせる原因も、分からないわけじゃない。
むしろ痛いほど思い当たる。
俺は、
当たり前のように市原の隣に居たかったんだ。
友達として、と思っていたけれど違う。
真野に言い寄られているところをみてモヤモヤしたのも、ミキの話を聞いてイライラしたのも
全部、俺が一番アイツの隣に居たかったからだ。
深く考えないようにしていた。
知らないフリをしていた。
だって、知ってしまったら
今の関係ではいられなくなるから。
なのにーーー
こんな日が来るとは、思わなかった。
深く深呼吸をして、スマホのメッセージを開く。
「ーーー明日、帰りに会える?」
翌日の放課後。
彼女は今までと変わらず、校門のところで待っていた。
「急に呼び出して悪い」
「ううん」
ミキは首を横に振って、大丈夫と付け加えた。
「帰りながら話す?」
なんでもない事のように切り出す彼女に向かって
「いや、ここで……聞いて」
そう、これ以上は
一緒に歩けない。
彼女にきちんと向き合おうと、真面目に考えた。
どう話すのが良いのか、必死で頭を振り絞って考えた。
結果。
「今まで、ありがとな。」
「うん」
「お前の言うとおり、俺……アイツの事好きだわ」
「……うん」
もう、目の前の涙を拭ってやれない。
彼女の事も、好きだった。
でも何を言ってもきっと言い訳にしかならないから。
「ごめんな」
その気がないのにつき合ったワケじゃない。
だからこそ、胸が痛いんだ。
これは、失くした歯車の欠片。
忘れないように、痛みがあるんだ。
「……え」
戸惑うような彼女の声が聞こえたが、
俺はその表情を見ることができなかった。
違う。
そうじゃない。
「……悪い。そういう意味じゃないんだけど、ほら……」
(俺たち、アイツの話ばかりしてねえか?)
そう言いそうになって、思いとどまる。
続く言葉が見つからない。
アイツの話が出るのは、これまでを考えれば当たり前のことで
問題はーーー
「……ごめん」
俺が何かを言うより先に、ミキのか細い声が聞こえた。
湿った風が、俺たちの間を通り抜けた。
雨が、降りそうだ。
思い空気を振り払いたいのに、
その術が見つからない。
「……悪い。ちょっと考えなしだった」
素直にそう謝るが、そう簡単に流れが変わるわけもなく。
この先どう切り替えようかと空を仰いだ時だった。
「……私たち、あかねの話ばかりしてるよね」
ついさっき、俺が言い淀んだ言葉と同じセリフを
彼女の口から聞いた。
「そうか?」
とぼけてみるが、きっとミキには通じないだろう。
認めたくないんだ。
それが、何を意味するのか。
「……意地悪ばかりしちゃって、ごめん」
「意地悪?」
「圭太くんが、あかねの事見てるから…つい言っちゃうんだ」
「……」
心臓が変な音を立てた。
「私もね、あかねが好きだから……なんとなくね、分かるんだよ」
「…………」
「だけど、私の事も知ってほしかった」
知ってるよ。
アイツと同じだけ、お前も見てきた。
同じように笑い、同じように頑張っているところも。
いつもあかねに対して遠慮していたことも。
だからーーーこうして自分から近付いて来てくれた事に驚いたし、嬉しかったんだ。
でも、それとこれは違う話だってことも、薄々感づいていてーーー
何から言葉にすればいいのか。
どうしたら、伝わるんだ。
もどかしい。
最近、こんなことばかりだ。
「あかねの話をすれば、圭太くん喜んでくれるし話も弾むからいいと思ってた。冗談言っても返してくれるし」
ぽつり、と地面が黒く滲んだ。
「だけど……やっぱり寂しいよ」
こういう時、俺はどうすればいいんだろう。
真野だったら、どうするんだろう。
衝動に任せて目の前の彼女を抱き寄せてやりたいけれど
そうする権利が、俺には無い気がして。
「……ごめん」
ただ、不甲斐ない自分を
謝るしかなかった。
地面の黒い滲みが広がり、ポツポツとしていた雨が
俺たちの帰りを促すように強く降り始める。
「……とりあえず、帰ろう」
とにかくこの場から、動きたかった。
彼女を家へ送った後
「じゃあ、また」
とは言ったものの、
それからしばらくの間
お互いどちらともなく気まずくて
自然と距離が開いてしまった。
季節の移り変わりが、時が経つのを嫌でも感じさせる。
ミキと過ごしたこの数ヶ月は本当に楽しかったから
そんな風に思われていたことが
正直、ショックだった。
だけど、
そう思わせる原因も、分からないわけじゃない。
むしろ痛いほど思い当たる。
俺は、
当たり前のように市原の隣に居たかったんだ。
友達として、と思っていたけれど違う。
真野に言い寄られているところをみてモヤモヤしたのも、ミキの話を聞いてイライラしたのも
全部、俺が一番アイツの隣に居たかったからだ。
深く考えないようにしていた。
知らないフリをしていた。
だって、知ってしまったら
今の関係ではいられなくなるから。
なのにーーー
こんな日が来るとは、思わなかった。
深く深呼吸をして、スマホのメッセージを開く。
「ーーー明日、帰りに会える?」
翌日の放課後。
彼女は今までと変わらず、校門のところで待っていた。
「急に呼び出して悪い」
「ううん」
ミキは首を横に振って、大丈夫と付け加えた。
「帰りながら話す?」
なんでもない事のように切り出す彼女に向かって
「いや、ここで……聞いて」
そう、これ以上は
一緒に歩けない。
彼女にきちんと向き合おうと、真面目に考えた。
どう話すのが良いのか、必死で頭を振り絞って考えた。
結果。
「今まで、ありがとな。」
「うん」
「お前の言うとおり、俺……アイツの事好きだわ」
「……うん」
もう、目の前の涙を拭ってやれない。
彼女の事も、好きだった。
でも何を言ってもきっと言い訳にしかならないから。
「ごめんな」
その気がないのにつき合ったワケじゃない。
だからこそ、胸が痛いんだ。
これは、失くした歯車の欠片。
忘れないように、痛みがあるんだ。