こんな恋のはじまりがあってもいい
なんか、おかしくないですか。
ミキが圭太と別れたと聞いてから
案の定、圭太はしばらく顔を見せなかった。

当たり前か。

それがなんとなく、寂しかったりもする。
その気持ちが果たして
どういう感情なのかは良く分からない。

そして、放課後の帰り道も
もちろんミキと過ごすことが多くなり
気がつけば
真野くんと最後に二人で帰ったのはいつだったのか、思い出せなくなっていた。

同じクラスだし
帰ろうと思えば三人で帰れるはず。
だけど
なんとなく、それは違う気がして。

そしてーーー
ミキが圭太と別れたことで
真野くんにもチャンスがあるんじゃないか、という思いが
少し、私をモヤモヤさせた。

私は、どうなんだろう。

自分のことなのに、分からないなんて
一体どういうことなのか。
いつもこの調子で深く考えずに曖昧にしている。

きっと私は
深く考えるのが、怖いんだ。
だって答えを出してしまったらーーー

「おい、市原」
「へっ」

とある昼休み。
先生に用事を頼まれ、職員室へ向かう途中に後ろから声をかけられた。

「……圭太」

久しぶりに、ちゃんとアイツの顔を見た気がする。

「よー、元気?」
「??…元気だよ??」

なぜ声をかけられたのか良くわからず。
とりあえず表面的に挨拶を返す。

「ミキ、元気してる?」

ーーーああ、そういうことーーー

納得して、私はぶんぶんと首を縦に振った。
「うん、元気だよ」
「そうか、なら良かった」
「……」

それ以上、話すことはないだろうと
私はその場を切り上げようとした。

なんだか、違和感がある。
気分が悪い。
他人行儀のような、変な空気。

「ところでさ、市原」
「?」

要件はまだ続くようだ。
私は歩きかけた足を止めて、圭太を見た。
彼は両手をパンッと合わせ、拝みながら言った。

「ーー英語のワーク貸して」
「はあ?」
「ちょー今回俺マジピンチでさ」

コイツ……
でも、別にこのスタイルは彼らが付き合う前からお馴染みの光景で。
私にとっては、最近が不自然だっただけだと思い出した。

でも、何か。
前とは違う、変なズレを感じながら

「ああ、いいよ。今先生に呼ばれてるから後でいい?」
「えーそれ待ってたら昼休み終わっちゃうじゃん」
「…もしかして次の授業で必要ってこと?」
「そう」

オイもっと早く言えよ
いやーーー言い出しにくかったのかもしれない

はあ、とわざとらしくため息をついて。
私は教室へ戻り、彼にワークを手渡した。

「サンキュー、後で返すわ」
ぽんぽん、と私の頭を叩き、彼はご機嫌で教室へ戻って行った。

何か、変な感じがする。
それが一体何なのか、分からず
そしてまた深く考えずにーーー私は職員室へ向かった。


そして
その日を境に、圭太と話す機会が増えた。
「市原サンっ!お願いしやす!」
「無理」
「そこをなんとか!」

そんなやり取りの末に、ノートやワークを取引する。
また、前の私たち、だ。
ただ、ひとつ違うのは
そこにミキが来なく、なった。

そして、真野くんも。

当たり前だ。

そこにまた、居心地の悪さを感じる。
私は、ミキを大事にしたい。
それにーーーもう、アイツは何か違う気がする。

その違和感を振り払えない私もまた
情けない
習慣って恐ろしい。

これでまた、ミキと気まずくなるのだけは
嫌だなあ
それだけは本当に思った。

でも彼女はそんなこと顔にも出さず、
今までと変わらず接してくれている。
大丈夫だろうか。

いつもそんな不安をどこかに感じながら
気分の悪いやり取りを続けているうちに
ますます、その違和感は増すこととなる。
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