こんな恋のはじまりがあってもいい
違和感の正体
圭太とのやりとりに対して、何か違うなと思っていたのは
急に、優しくなったこと。
それと、やたら近い距離。

何なんだ。

最初は気づかなかった。
でも、徐々に
会う機会が増えるたびに、その距離の近さが気になるまでになった。

ミキや真野くんが居るせいか
教室へ来ることは無いのだけれど

教室を出た廊下や階段の踊り場
はたまた玄関や校門など
ありとあらゆるところで、彼に捕まる。

何でだろう、
彼は何を考えているのか。

最初は、ミキのことが気になっているのだと思った。
ヨリを戻したいとか、そういう類の。

でも、違うなと思った。

やたら頭や背中を叩かれたり、かと思えば
犬のようにわしゃわしゃと頭を撫でまわされたり
話す時も顔が近い。
思わず一歩後ろへ下がる事が多い。

ずっと、モヤモヤしている。

何だろう。
前の自分なら、圭太と話せるだけで楽しくて
優しくされそうモンなら舞い上がっていたかもしれない。
でも今は、そうじゃない。

ミキに気を使って、というわけでも無い。
彼女たちはもう、終わっているのだから。

もっと、違う何か。
あの、心があったかくなるような
あの気持ちはどこへ行ったんだろうか

彼といる時のほうがよっぽどーーー

「あかね、ノート助かったわ」

いつの間にか名前で呼ばれているし
それにもどう反応して良いのか、分からない。
でも、この違和感について悩むのも正直限界で

ハッキリさせたい気持ちが湧き上がる。

「うん、ところでさ」

「ん、何?」

いつものように廊下でノートを受け取ったあと
それとなく、聞いてみる事にした。

「なんでアンタ毎回ノート借りに来るの?頻度ひどくない?」

「え、あかねのノート見る方が楽じゃん。分かりやすいし」

シレッと返事しているが、
私が聞きたいのはそういう事では無い。

「前はもっと、自分でちゃんとやってたよね?」
「そうだっけ?」
「……やってた。少なくともこんなに毎日来てなかった」
「何?俺と話すの嫌なの?」

逆に聞かれて返答に困る。

嫌か、と聞かれると
答えにくい。

「そうじゃなくて」
「じゃあ、何。」

どうしよう。

「ほかにもノート借りれる人いるでしょ。別に私じゃなくても」
「あかねのがいいんだよ」
「なんで。」

今更なにを言うのだろうかコイツは

「え、だからさっきも言ったじゃん、楽なんだって」
「人を便利屋のように扱わないで欲しいんですけど」

そう、私は都合のいい女じゃない。
そこは主張したい。

でも
「え〜俺とあかねの仲っしょ。今更なに」

効果が無いようだ。

「それはちょっと違うんじゃ…」
負けていられない。
もう、こんな不毛なやりとりは嫌だ。

おかしい。
前はコイツとのやりとりも楽しかったのに。
なんでだろう

苦しい胸のうちをどう解消しようかと考えているのに

「じゃあさ、今度一緒に勉強会しようぜ」

なぜそうなる。
そして、近いって。

「無理」
「え〜つれないね〜」
ふざける姿にもイライラしてしまう。

そう、こんな時に思い出すのはーーー
いつも助けてくれた、彼の顔。

ああそうか。
私、もうとっくに新しい恋、始めてたのかもしれない。

でも、もう彼が来ることは無いだろう。
一人でこれに決着をつけなくては。
そんな風に気合いを入れようとしたその時。

ぐっ、と後ろに腕を引かれた。
あの時の感覚を思い出す。


「ーーお前さ。その気も無いくせに市原に手ェ出すの、やめてくれる?」


後ろから声がした。
聞きなれた、声。

心臓が止まるかと思った。
彼はいつも、なんてタイミングで助けに来てくれるんだろう。

「真野くん」
私は彼の名を呼ぶだけが、精一杯だった。

なんで、分かったんだろう。
私が困っていること。

なんで、来てくれたんだろう。
ミキとの事はもう、解決しているはずなのに。

聞きたいけど聞けるわけもなく
ただ、いろんな感情がぐるぐると頭の中で渦巻いている。

「は?お前なにヒーロー気取り……あ、もしかしてコイツに惚れてるとか?」
にやりと圭太が笑う。
バカにするつもりだろうか。

真野くん、いいよ
変にからかわれて恥かくだけだよ。

やめて、と私が言うより早く
彼は、答えた。
「そうだよ。悪い?」
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