いちばん、すきなひと。
そんなにうまい話があるわけない。
新学期ーー
クラス発表の掲示板を見て。
ほらね、と呟いた。
私は、4組。
彼はーー7組。
離れて、しまった。
もしかして、なんて淡い期待も
シャボン玉のように、弾けて消えた。
それにしても。
どうして、松田と野々村が同じクラスなんだ。
松田に妬いても仕方ないのだが。
「みやのっちーおはよー」
野々村が、後ろから私の肩を叩く。
「クラス、離れちまったなー」
「そだねー残念。」
「また皆で遊ぼうや」
「うん、そだね」
そんな約束も、果たされないことを薄々感じて。適当に返事をしておく。
離れたら、もうおしまい。
きっと、この感情も薄れて
距離を感じなく、なる。
そのほうがいいかもしれない。
こんな苦しい恋は、忘れてもいいかもしれない。
自分で慰めるのもまた情けなく。
とにかく、新しいクラスの名前を確認する。
近藤さんが同じクラスだ。
ホッとする。
また、彼女と楽しく過ごせば良い。
色々、女を教えてもらおう。
新しいクラス。
新しい自分に、なるんだ。
いつまでも過去に振り回されるのは
おしまいにしよう。
そして、彼への想いも
今は、そっと
胸の奥にしまっておこう。
新しい日々が、始まる。
新しいクラスの様子を見て、ついグループ分けをしてしまう。
トップの子たちには関わらないようにする為だ。
花形のバスケ部メンバーやその周りから、アイツの話題を耳にするのを避ける。
改めて、彼はいつも話題に上る人なのだと痛感した。
私は、二番目や三番目であろう子たちと意識的に仲良くした。
地味に、いこう。
無理せず、自分のペースで楽しむんだ。
こうして。
それなりに、静かな学校生活を楽しむ事にしたのだ。
彼とはもう、関わらないように。
たまに廊下ですれ違う。
目が合えば多少の会話が必要になりそうだったので、極力目を合わせないようにした。
彼も、わざわざ声をかけてくる事は無かった。
そんなもん、だよね。
きっとその程度だったんだ。
そう納得できるのも、クラスが離れているせいかもしれない。
この状況が、苦しくもありがたかった。
そんなある日。
久しぶりに、桂子と会う事になった。
別件の用事で近くまで来るらしい。
ついでに少し会おうかという流れだ。
駅前で、待ち合わせる。
「みやちゃーん」
変わらない声に安堵して、改札を見る。
相変わらず、綺麗な桂子。
そしてその隣に、見慣れない人。
かっこいい、男の人。
「ごめんねー、どうしてもみやちゃんに会ってから行くって言うから」
瞬時に判断した。
桂子の彼氏だ。
「初めましてーアツシですっ。皆からはあっちゃんて呼ばれてまーす。よろしく」
軽そうですね。
それが、第一印象だった。
男前は残念なキャラが定番なのでしょうか。
「あっちゃんが用事で私は便乗しただけ」
桂子は笑って訳を話す。
彼氏のーーあっちゃんも少しだけ時間があるというので、駅前のコーヒーショップでお茶をした。
お互いの近況報告ーー主に桂子の彼氏についてなのだけど。
同じ学校だとか、クラスは違うけど彼の一目惚れで一年に渡る猛アタックの末に付き合ったという経緯などを簡単にかいつまんで聞いた。
部長との事は恥ずかしくて言えないけど。それなりに簡単な話をしながらも、私は疎外感を拭えなかった。
今の自分には、穏やかに二人を見る余裕すらないのだろうか。
それが少し、残念だ。
少しだけ話して、あっちゃんは用事の為に席を外した。
「……いい人だね」
ベタな感想だな、と自分で思いながらも
素直にそれを桂子に伝える。
「うーん、私の好きなタイプではないんだけどね」
「だろうね。」
私は速攻頷いた。
あの人は、よろしくない人種だ。
私の勘なのでアテにならないが。
いい意味で、魅力的。
野々村と、重なる所があるーー
そんなワケで、正直。内心は苦手だ。
でも桂子の彼氏だから大丈夫。
そういったフィルターを通して彼を認識する。
「やっぱ、好きじゃなくても押されると弱い?」
少し面白がって聞いてみた。
桂子は恥ずかしそうに笑いながら
「うーん…そうだねぇ。あのペースに負けちゃった。実際、一緒にいて楽しいしね」
自分の事を少し思い出す。
部長に言われて、自分も舞い上がった。
憧れが、本気で好きになった。
だからこそ、その気持ちも
今なら、分かる。
でも、告白されても断った
アイツの事も思い出す。
好きな人がいるからと断ったーー
付き合ってるならそう言うだろう。
と、いう事は片思いなんだろうか。
アイツに片思いなんて、似合わない。
誰かを見て切なくなったりしてるんだろうか。
「……みやちゃん?ぼーっとしてるけど大丈夫?」
桂子が私の目の前で手を振った。
いけない。トリップしてしまった。
アイツの事など、もう考えてはいけない。
時間の無駄だ。
あっちゃんを見たから、思い出しただけだ。
「いいねぇ。同じ学校の彼氏かー。私も青春したいー!」
本当は恋なんてしたくないけど
つい、そう言ってしまう。
「みやちゃん、好きな人いないの?」
「いないよーもうヒマでヒマで。」
「あはは、みやちゃん綺麗になったからいい人居るんだと思ってたー」
残念。
惜しい、です。
それはもう過去の事。
それでも、私は変わったんだろうか。
少しずつ、変われたらいいな。
「新しいクラスに期待するかー。ってもそんなにイケメンがそこらにゴロゴロしてるワケないしねぇ」
私は大げさに溜息をついて、残りのコーヒーを飲み干した。
数時間、近所をブラブラ見て周り
もう一度休憩してケーキを食べようとカフェの前でメニューを見ていたら。
「おっ、みやのっちー」
聞きたくない声の予感。
どうしてここで。
「あれー?桂子もいるじゃん」
そう言って近付いてくるのはもちろん、アイツだ。
「わー野々村久しぶりー!変わってないねぇ」
「相変わらず男前だろ?」
「きゃー寒い所も変わってないー」
桂子がキャッキャと笑う。
私は、もう会いたくなかった。
決意した心を揺さぶられそうで。
だけど、その心配は無かった。
野々村の後ろに女の子がいたから、だ。
見たことのない、可愛い女の子。
「今、塾の帰りでさ。」
なるほど。
なんとなく、理解した。
こういう時の理解の速さが自分で恨めしい。
何も言えないし聞けなくなる。
「じゃ、あたしたち今からケーキ食べるから」
「おーまたなー」
アッサリ手を振って。
後ろの女の子と親しげに歩いて行く。
なんだ。
そういうこと、か。
色んな話が、繋がった。
きっと、彼女が
野々村の、好きな人。
年下っぽいな。
可愛かったな。
あれなら、仕方ないな。
何、考えているのだろう。
私ってば馬鹿だ。
でも、思ったほど落ち込んでいない。
そのことに自分で驚いた。
もう、それほどに
私の中で彼は遠く離れてしまったんだろうか。
何事もなかったかのように、桂子とカフェに入り、ケーキを注文する。
「……まさかここで野々村に会うとはねー。しかもアレ、彼女かな?」
桂子は驚きながらも興味津々といった様子だ。
あまりこの話には触れたくないのだけど。
そういう訳にもいかず。
適当に会話を滑らせる。
「それっぽかったよねー、見かけない子だったから塾の子かなぁ。この間好きな人いるとかって聞いたしね」
「へぇ、その話はみやのっちが直接聞いたの?」
桂子といい近藤さんといい、私を何だと思ってるんだろうか。
そんな事をズケズケと聞ける間柄ではない。
聞くはずもない。
「まさかー!一年の時にクラスの女子が告ってさ、そうやって断られたんだと」
「えークラスメイトにとか凄いねぇ。勇気ある」
「そーだねー、可愛い子だったよ」
「ふーん……」
桂子はその辺で興味も尽きたのか、それとなく別の話題に切り替えた。
私も、それ以上はアイツの話をしなかった。
もう、する必要もないし
あれはアレでいいんじゃないだろうか。
ショックではあったけど
感情が麻痺しているようだ。
桂子と一緒でよかったかもしれない。
冷静で、いられる。
世の中そんなに甘くない
それだけは、理解した。
やっぱり新しい恋を探さなければ。
告白しなくて、よかった。
クラス発表の掲示板を見て。
ほらね、と呟いた。
私は、4組。
彼はーー7組。
離れて、しまった。
もしかして、なんて淡い期待も
シャボン玉のように、弾けて消えた。
それにしても。
どうして、松田と野々村が同じクラスなんだ。
松田に妬いても仕方ないのだが。
「みやのっちーおはよー」
野々村が、後ろから私の肩を叩く。
「クラス、離れちまったなー」
「そだねー残念。」
「また皆で遊ぼうや」
「うん、そだね」
そんな約束も、果たされないことを薄々感じて。適当に返事をしておく。
離れたら、もうおしまい。
きっと、この感情も薄れて
距離を感じなく、なる。
そのほうがいいかもしれない。
こんな苦しい恋は、忘れてもいいかもしれない。
自分で慰めるのもまた情けなく。
とにかく、新しいクラスの名前を確認する。
近藤さんが同じクラスだ。
ホッとする。
また、彼女と楽しく過ごせば良い。
色々、女を教えてもらおう。
新しいクラス。
新しい自分に、なるんだ。
いつまでも過去に振り回されるのは
おしまいにしよう。
そして、彼への想いも
今は、そっと
胸の奥にしまっておこう。
新しい日々が、始まる。
新しいクラスの様子を見て、ついグループ分けをしてしまう。
トップの子たちには関わらないようにする為だ。
花形のバスケ部メンバーやその周りから、アイツの話題を耳にするのを避ける。
改めて、彼はいつも話題に上る人なのだと痛感した。
私は、二番目や三番目であろう子たちと意識的に仲良くした。
地味に、いこう。
無理せず、自分のペースで楽しむんだ。
こうして。
それなりに、静かな学校生活を楽しむ事にしたのだ。
彼とはもう、関わらないように。
たまに廊下ですれ違う。
目が合えば多少の会話が必要になりそうだったので、極力目を合わせないようにした。
彼も、わざわざ声をかけてくる事は無かった。
そんなもん、だよね。
きっとその程度だったんだ。
そう納得できるのも、クラスが離れているせいかもしれない。
この状況が、苦しくもありがたかった。
そんなある日。
久しぶりに、桂子と会う事になった。
別件の用事で近くまで来るらしい。
ついでに少し会おうかという流れだ。
駅前で、待ち合わせる。
「みやちゃーん」
変わらない声に安堵して、改札を見る。
相変わらず、綺麗な桂子。
そしてその隣に、見慣れない人。
かっこいい、男の人。
「ごめんねー、どうしてもみやちゃんに会ってから行くって言うから」
瞬時に判断した。
桂子の彼氏だ。
「初めましてーアツシですっ。皆からはあっちゃんて呼ばれてまーす。よろしく」
軽そうですね。
それが、第一印象だった。
男前は残念なキャラが定番なのでしょうか。
「あっちゃんが用事で私は便乗しただけ」
桂子は笑って訳を話す。
彼氏のーーあっちゃんも少しだけ時間があるというので、駅前のコーヒーショップでお茶をした。
お互いの近況報告ーー主に桂子の彼氏についてなのだけど。
同じ学校だとか、クラスは違うけど彼の一目惚れで一年に渡る猛アタックの末に付き合ったという経緯などを簡単にかいつまんで聞いた。
部長との事は恥ずかしくて言えないけど。それなりに簡単な話をしながらも、私は疎外感を拭えなかった。
今の自分には、穏やかに二人を見る余裕すらないのだろうか。
それが少し、残念だ。
少しだけ話して、あっちゃんは用事の為に席を外した。
「……いい人だね」
ベタな感想だな、と自分で思いながらも
素直にそれを桂子に伝える。
「うーん、私の好きなタイプではないんだけどね」
「だろうね。」
私は速攻頷いた。
あの人は、よろしくない人種だ。
私の勘なのでアテにならないが。
いい意味で、魅力的。
野々村と、重なる所があるーー
そんなワケで、正直。内心は苦手だ。
でも桂子の彼氏だから大丈夫。
そういったフィルターを通して彼を認識する。
「やっぱ、好きじゃなくても押されると弱い?」
少し面白がって聞いてみた。
桂子は恥ずかしそうに笑いながら
「うーん…そうだねぇ。あのペースに負けちゃった。実際、一緒にいて楽しいしね」
自分の事を少し思い出す。
部長に言われて、自分も舞い上がった。
憧れが、本気で好きになった。
だからこそ、その気持ちも
今なら、分かる。
でも、告白されても断った
アイツの事も思い出す。
好きな人がいるからと断ったーー
付き合ってるならそう言うだろう。
と、いう事は片思いなんだろうか。
アイツに片思いなんて、似合わない。
誰かを見て切なくなったりしてるんだろうか。
「……みやちゃん?ぼーっとしてるけど大丈夫?」
桂子が私の目の前で手を振った。
いけない。トリップしてしまった。
アイツの事など、もう考えてはいけない。
時間の無駄だ。
あっちゃんを見たから、思い出しただけだ。
「いいねぇ。同じ学校の彼氏かー。私も青春したいー!」
本当は恋なんてしたくないけど
つい、そう言ってしまう。
「みやちゃん、好きな人いないの?」
「いないよーもうヒマでヒマで。」
「あはは、みやちゃん綺麗になったからいい人居るんだと思ってたー」
残念。
惜しい、です。
それはもう過去の事。
それでも、私は変わったんだろうか。
少しずつ、変われたらいいな。
「新しいクラスに期待するかー。ってもそんなにイケメンがそこらにゴロゴロしてるワケないしねぇ」
私は大げさに溜息をついて、残りのコーヒーを飲み干した。
数時間、近所をブラブラ見て周り
もう一度休憩してケーキを食べようとカフェの前でメニューを見ていたら。
「おっ、みやのっちー」
聞きたくない声の予感。
どうしてここで。
「あれー?桂子もいるじゃん」
そう言って近付いてくるのはもちろん、アイツだ。
「わー野々村久しぶりー!変わってないねぇ」
「相変わらず男前だろ?」
「きゃー寒い所も変わってないー」
桂子がキャッキャと笑う。
私は、もう会いたくなかった。
決意した心を揺さぶられそうで。
だけど、その心配は無かった。
野々村の後ろに女の子がいたから、だ。
見たことのない、可愛い女の子。
「今、塾の帰りでさ。」
なるほど。
なんとなく、理解した。
こういう時の理解の速さが自分で恨めしい。
何も言えないし聞けなくなる。
「じゃ、あたしたち今からケーキ食べるから」
「おーまたなー」
アッサリ手を振って。
後ろの女の子と親しげに歩いて行く。
なんだ。
そういうこと、か。
色んな話が、繋がった。
きっと、彼女が
野々村の、好きな人。
年下っぽいな。
可愛かったな。
あれなら、仕方ないな。
何、考えているのだろう。
私ってば馬鹿だ。
でも、思ったほど落ち込んでいない。
そのことに自分で驚いた。
もう、それほどに
私の中で彼は遠く離れてしまったんだろうか。
何事もなかったかのように、桂子とカフェに入り、ケーキを注文する。
「……まさかここで野々村に会うとはねー。しかもアレ、彼女かな?」
桂子は驚きながらも興味津々といった様子だ。
あまりこの話には触れたくないのだけど。
そういう訳にもいかず。
適当に会話を滑らせる。
「それっぽかったよねー、見かけない子だったから塾の子かなぁ。この間好きな人いるとかって聞いたしね」
「へぇ、その話はみやのっちが直接聞いたの?」
桂子といい近藤さんといい、私を何だと思ってるんだろうか。
そんな事をズケズケと聞ける間柄ではない。
聞くはずもない。
「まさかー!一年の時にクラスの女子が告ってさ、そうやって断られたんだと」
「えークラスメイトにとか凄いねぇ。勇気ある」
「そーだねー、可愛い子だったよ」
「ふーん……」
桂子はその辺で興味も尽きたのか、それとなく別の話題に切り替えた。
私も、それ以上はアイツの話をしなかった。
もう、する必要もないし
あれはアレでいいんじゃないだろうか。
ショックではあったけど
感情が麻痺しているようだ。
桂子と一緒でよかったかもしれない。
冷静で、いられる。
世の中そんなに甘くない
それだけは、理解した。
やっぱり新しい恋を探さなければ。
告白しなくて、よかった。